『間抜けの構造』 ビートたけし (新潮新書)
「間」は魔…いや、「神」?
日本文化にとって恐ろしいほどに重要でありながら、なかなか論理的に説明できない「間」。今までにも、学術的に日本文化における「間」、日本建築における「間」について論じた本をいくつか読んできましたけれども、なかなか自分の中で気持ちよく消化できずにいました。
なるほど「間」が説明できないなら、その「間」を抜いてしまうとどうなるか、つまり「間抜け」を研究すれば「間」本体が分かるかもしれない、というのはありですね。
この本はそれをちゃんと学問的な手順をとって行なった本ではありません。まあ、ビートたけしさんですから、そんなことを最初から期待してはいけませんよね。
しかし、さすがは「北野武」でもあります。軍団の「間抜け」たちを紹介したりしながらも、なんとなく「間」の本質に迫っていると思います。
それこそですね、論理的、学問的に説明できない「モノ」こそが「間」という存在なのでしょう。
「間」という存在という言い方も変かもしれない。存在しないから「間」だとも言えますから。
そうすると「間抜け」というのはまた難しくなりますよね。「間」が抜けるということは、存在しないモノが抜ける状態、すなわち存在で埋まっている状態ということになります。
それがなんで失敗や愚か者を表すことになるのか。
そう、これはですね、音楽で言えば休符のない状態ということになります。休符を全部無視して演奏するような感じ。
日本の伝統的なリズム「七五調」なんていうのも、実は「間」によってできています。たとえば短歌の「五・七・五・七・七」も楽譜で書けば次のようになり(実際には違う譜割りもありますが、ここでは一般的な例を示します)「休符=間」を含めると、普通の「二拍子(あるいは四拍子、八拍子)となっていることが分かります。
これを「休符=間」を無視して、単純に「五七五七七」と続けて詠むと全く文学的でもなく音楽的でもなく日本的でもないリズムになってしまいます。
そういう「間」を抜くと、たしかに「マヌケ」なことになってしまいますね。
ワタクシ流の言い方をさせていただくなら、やはり「コトよりモノ」ということになりましょうか。実体や概念といった「コト」こそが私たちの世の中を構成していると考えがちなのが人間です。
しかし、本当は私たちがコントロールしがたい、あるいは察知しがたい、たとえば「間」のような「モノ」こそが、この世の本質であったりするわけです。
ところで、この本で、「なるほど不思議だ。ちょっと調べてみよう」と思ったのが、「間に合う」という言葉です。
ある時間に「間に合う」というのも、よく考えてみれば、何が「間」なのか、何がどう「合う」のかよく分かりませんよね。
そして、たけしさんの挙げた「(新聞の勧誘に対して)ウチは間に合ってます」という時の「間に合う」。これは本当によく分からない。考えてみる価値がありそうです。
とにかく、「間」の持つ「モノ」性を、ビートたけしらしく面白く、そして北野武らしく非説明的に考察した、すなわち「間」が生きた読み物でありました。
「間」…それはたしかに「魔」ともなりますが、うまく機能している時は、まさに「神」というべき存在(非存在)だとも言えそうですね。
Amazon 間抜けの構造
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- いかりや長介と立川談志の対話(2024.08.19)
- 九州人による爆笑九州談義(筑紫哲也、タモリ、武田鉄矢)(2024.08.18)
- 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』 武内英樹 監督作品(2024.08.16)
- 『大鹿村騒動記』 阪本順治 監督作品(2024.08.11)
- 凪良ゆう 『流浪の月』(Audible)(2024.06.25)
「音楽」カテゴリの記事
- ラモー 『優雅なインドの国々より未開人の踊り』(2024.08.12)
- ロベルタ・マメーリ『ラウンドМ〜モンテヴェルディ・ミーツ・ジャズ』(2024.07.23)
- まなびの杜(富士河口湖町)(2024.07.21)
- リンダ・キャリエール 『リンダ・キャリエール』(2024.07.20)
- グラウプナーのシャコンヌニ長調(2024.07.19)
「芸能・アイドル」カテゴリの記事
- いかりや長介と立川談志の対話(2024.08.19)
- 九州人による爆笑九州談義(筑紫哲也、タモリ、武田鉄矢)(2024.08.18)
- こども歌舞伎「勧進帳」(2024.06.22)
- 冨田靖子 『グッドバイ夏のうさぎ』 山名兌二 監督作品(2024.06.18)
- 『彼岸花』 小津安二郎 監督作品(2024.06.16)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 南部と津軽と甲州と…(2024.07.31)
- 死なない力(2024.07.18)
- 『今永昇太のピッチングバイブル』 (ベースボール・マガジン社)(2024.07.17)
- ハイデガーVS道元…哲学と仏教の交差するところに、はじめて立ち現れてきた「真理」とは?(2024.06.03)
- 日本語はどこから来た?(2024.06.01)
「心と体」カテゴリの記事
- 【戸塚宏】令和の今、体罰を語る(2024.08.20)
- 全日本プロレス祭 アリーナ立川立飛大会(2024.08.17)
- 模擬原爆パンプキン(2024.08.09)
- オリンピックは◯◯の◯◯である!?(2024.08.07)
- 柔道混合団体銀メダル(2024.08.03)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- いかりや長介と立川談志の対話(2024.08.19)
- 九州人による爆笑九州談義(筑紫哲也、タモリ、武田鉄矢)(2024.08.18)
- 全日本プロレス祭 アリーナ立川立飛大会(2024.08.17)
- 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』 武内英樹 監督作品(2024.08.16)
- ラモー 『優雅なインドの国々より未開人の踊り』(2024.08.12)
「美術」カテゴリの記事
- 艮の金神のお出ましか!(2024.08.02)
- 歌川広重 『六十余州名所図会〜信濃 更科田毎月鏡台山』(2024.06.23)
- 「変身」の楽しさ(2024.05.23)
- 宮城道雄・横山大観を拝す(2024.05.06)
- COTEN RADIOショート やなせたかし編(2024.04.15)
「文学・言語」カテゴリの記事
- いかりや長介と立川談志の対話(2024.08.19)
- 九州人による爆笑九州談義(筑紫哲也、タモリ、武田鉄矢)(2024.08.18)
- 富士山と八ヶ岳のケンカ(2024.08.10)
- 上野三碑(こうずけさんぴ)(2024.08.06)
- 東北のネーミングセンス(2024.07.28)
「歴史・宗教」カテゴリの記事
- 九州人による爆笑九州談義(筑紫哲也、タモリ、武田鉄矢)(2024.08.18)
- 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』 武内英樹 監督作品(2024.08.16)
- 【厳秘】大戦終末に関する帝国政府声明の骨子(その3)(2024.08.15)
- 【厳秘】大戦終末に関する帝国政府声明の骨子(その2)(2024.08.14)
- 【厳秘】大戦終末に関する帝国政府声明の骨子(その1)(2024.08.13)
「モノ・コト論」カテゴリの記事
- ハイデガーVS道元…哲学と仏教の交差するところに、はじめて立ち現れてきた「真理」とは?(2024.06.03)
- 文字を持たない選択をした縄文人(2024.02.14)
- スコット・ロスのレッスン(2024.01.12)
- AIは「愛」か(2024.01.11)
- Re:Hackshun【目せまゆき&成田山幽輔】安倍さんは、あの解散をどう考える?(チョコレートプラネット チャンネル)(2023.11.21)
コメント