ETV特集『富士山と日本人 ~中沢新一が探る1万年の精神史~』 (NHK)
昨晩放送されたもの。再放送が今週の金曜日深夜(土曜日午前0時45分)にありますので、地元の方、興味のある方はどうぞご覧ください。
三日前の「日本の文脈」の著者(話者)のお一人である、山梨県出身の中沢新一さんが、いかにも彼らしい視点で富士山について語りました。
私としては既知の事実、あるいはよく考えている(感じている)ことがほとんどでしたから、特に新しい知見を得たというわけではありませんけれども、だからこそすんなり「そうそう」と思えることが多い番組でした。
正直1万年に及ぶ「富士山と日本人の精神史」を1時間弱で語りつくすこはできるはずがありません。
実際、私たちのような「富士山と日本人の精神史」マニアからすると、表面をなでただけの内容であったと言えます。
まあ、それはしかたありません。一般向けの公共放送の教養番組ですから。
しかし、こうして、文化としての富士山が多く語られるようになるということは、世界文化遺産登録(予定)のおかげであり、素直に良かったなと感じます。
浅間大神(あさまおおかみ)と名付けられた神としての富士山。番組では深く語られませんでしたが、この神様はまさに「縄文の荒神」でありました。
だから「あさま」なのです。「あさま」とは形容詞「あさまし」の語幹であります。「あさまし」とは、簡単に言えば「想定外」という意味です。
まさに火山の噴火は人知を超えた想定外の現象だったことでしょう(今でもそうですね)。2年前のあの巨大地震や巨大津波なども、古語で言い表すなら「あな、あさま」ということになります。
特に東国の巨大な火山富士山は、都の人々からすると、ちょうどいい具合に遠いために、まさに「あさま」な存在であったわけです。
面白いのは、古事記・日本書紀には富士山が全く登場しないということですね。これはあまりに不自然です。おそらくは東国の「あさま」を恐れてのことでしょう。火山としてもですが、同じく「まつろはぬ(アンコントローラブルな)もの」であった縄文系の人々に対する畏怖(忌避)があったものと考えられます。
古来日本人は、人知を超えたアンコントローラブルな自然をととらえました。日本の神道はそこから始まっているんですよね。
私の「モノ・コト論」で言うならば、不随意、不可知、制御不能な「モノ」を神と名付けたということです。
番組でも紹介されていたとおり、貞観の大噴火の際には、「浅間大神」は高い位を与えられます。懐柔策とでも言えましょうか。
また「鎮爆」のために甲斐の国に浅間神社を創建します(おそらく河口浅間神社)。
結果として噴火は次第に沈静化していったので、ますます都の人々(弥生系、渡来系の人々)は、富士山を畏怖の対象としていきました。
平安時代以降、絶えない「恋」の象徴として歌に詠まれるようになるのは、ある意味では富士山の大衆化、骨抜き化政策であったとも言えます。かぐや姫や木花咲耶姫というキャラ化もその一つだったかもしれません。「カワイイ」でコーティングするというのは、日本古来の文化的特色だと私は考えています。
江戸で隆盛した富士講に関しては、中沢さんはずいぶん真面目に捉えていましたね。たしかにそういう純粋な信仰もあったことでしょう。しかし、反面は江戸のレジャーという側面もありました。伊勢参りするには遠すぎるから富士山…そういう要素もありましたし。もちろん、江戸という都市が持つ対京都(対貴族)的な潜在意識も働いていると思います。
というわけで、いろいろ書きたいことがありますが、キリがないので今日はこのへんで。とにかくご覧になっていない方はぜひ再放送を。ヒントは満載だと思います。
今日、地元の老人福祉施設で歌謡曲バンド「ふじやま」による慰問演奏をしてきました。昭和の歌謡曲だけではなく、懐かしい唱歌もたくさん演奏したのですが、お年寄りの皆さんがひときわ大きな声で歌ってくださったのは「ふじの山」でした。
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