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2013.05.20

憲法(案)前文の比較

 ずは参考までに保守派の皆さんの議論を3時間ほどどうぞ(笑)。仲間うちでもこれなのだから、やはり大変でしょうね。

 世間一般でも憲法改正論議がだいぶ盛り上がって来ました。結構なことです。安倍さんの功績の一つと言っていいでしょう。
 私は何度も書いているように、憲法は改正ではなく改訂でよいと考えています。一部改訂。そして、その改訂への手続きを常識的に正常化するのは当然だと思います(たとえば倉山満さんが言う7条の「誤植」などはさっさと直した方がいい)。
 なぜなら、「改正」は現実的に大変困難であると考えるからです。全体の見直しや自主憲法制定はほとんど不可能と言っていいほど難しい。
 また、こう言うと間違いなく誰かに怒られますが…私にとっては「憲法」は国家にとって重要なものに違いないけれども、個人にとってはそれほど大きな影響力を持つものではありません。
 憲法を読んで自らの思想や行動を規定している国民がどれほどいることやら。だいいち、どのくらいの人が憲法を読んで理解しているのでしょう(もちろん、それでいいと言っているわけではなく、自分への自戒もこめての発言です)。
 まして外国の方が日本の憲法を読んで「みっともない」とか思うのでしょうか。よく分かりません。
 まじめに憲法について考えると、どんどん「言葉の罠」にはまっていきます。私の言う「コト」世界に拘泥する者どうしのスケールの小さなケンカになってしまう傾向がある。
 そういう意味では、今「自主憲法を!」と叫んでも、はたしてそれが可能なのか。無知、無関心、無意識層と、国家観・国体・国柄に異様にこだわる改憲派と、もう一方の理由なき護憲派と、はたして多数決をとったらどうなるのか。
 おそらくは第一の層に、あとの二者がどう働きかけるかの戦いになってしまい、結局は長年続いてきた「コト」世界のケンカが移写拡大されるだけでしょう。
 さあ、そうならないために私たち第一の層は何をすべきなのか。せめて現行憲法の前文くらいはちゃんと読んで、そうして「こりゃ改憲は大変だ」と思う必要があるでしょうね。
 そんなわけで、今日は三つの「前文」を並べて読んでみたいと思います。現行憲法と自民党の改正草案、そして産経の国民の憲法です。
 正直、前文の改正(改訂)が一番大変でしょう。誰が完璧な日本語で完璧な前文を書けるのでしょう。
 私は実のところ、安倍さんが「みっともない」と評した現行のなんちゃって日本語による意味のよく分からない(しかし、文学的にはいろいろ解釈できる)現行の前文が嫌いではありません。国譲りの本質を表してるし。
 では、どうぞ。それぞれよく味わってみてください。そしてツッコミを入れてみてください。その時の自分の気持ちを客観的に比べてみて下さい。
 なお、大日本帝国憲法の告文もぜひ読んでいただきたいのですが、文語体で我々現代人には難解なため今日は割愛します(またいつか)。


「日本国憲法前文」 

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。


「自民党改正草案前文」

 日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
 我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
 日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。


「産経 国民の憲法前文」

 日本国は先人から受け継いだ悠久の歴史をもち、天皇を国のもといとする立憲国家である。
 日本国民は建国以来、天皇を国民統合のよりどころとし、専断を排して衆議を重んじ、尊厳ある近代国家を形成した。山紫水明の美しい国土と自然に恵まれ、海洋国家として独自の日本文明を築いた。よもの海をはらからと願い、和をもって貴しとする精神と、国難に赴く雄々しさをはぐくんできた。
 日本国民は多様な価値観を認め、進取の気性と異文化との協和によって固有の伝統文化を生み出してきた。先の大戦による荒廃から復興し、幾多の自然災害をしなやかな精神で超克した。国際社会の中に枢要な地位を占め、国際規範を尊重し、協調して重要な役割を果たす覚悟を有する。
 日本国は自由主義、民主主義に立脚して、基本的人権を尊重し、議会制民主主義のうえに国民の福祉を増進し、活力ある公正な社会を実現する。国家の目標として独立自存の道義国家を目指す。人種平等を重んじ、民族の共存共栄をはかり、国際社会の安全と繁栄に積極的に貢献する。
 われら日本国民は、恒久平和を希求しつつ、国の主権、独立、名誉を守ることを決意する。これら崇高な理想と誇りをもって、ここに憲法を制定する。

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