「布施」とは…
今、「布施のダンナは…」なんて言いますと、布施さんという男の人自身を指すか、布施さんという女性のご主人を指しますでしょうか。
語源的に言うと実は「布施はダンナ」なんですよね。ダンナは漢字で書くと「檀那・旦那」。つまり「布施=檀那」なんです。ご存知でしたか?
布施とは梵語の「dāna」の漢訳、檀那とは「dāna」の音訳なのです。だからイコール。同じ意味です。
では、「dāna」とはどういう意味かと言いますと、これは英語の「donation」を思い出せば良い。英語は印欧語族ですからね。サンスクリット語がラテン語を経て英語に至ったと。
そう、donationって「寄付」という意味じゃないですか。ここで、「dāna」=「檀那」=「布施」=「donation」=「寄付」という等式が頭のなかで完成しますよね(ドナー=ダンナもか)。
お釈迦様の教えに六波羅蜜(ろくはらみつ)というのがあります。悟りを目指して修行中の菩薩がやらねばならない六つのことです。
その第一に挙げられているのが「布施」ということになります。寄付するんですね。今、寄付というとお金を想像してしまいますが、お金がなくても大丈夫。物でもいいし、心でもいいし、教えでもいい。とにかく誰かのために何かを見返りを期待せず与えればいいのです。それが「布施=檀那」。
私たちはある意味みんな菩薩です。ブッダを目指しての修行者であると言ってもいい。
ただ私たちは自分が修行者であることを忘れてしまっているのです。たとえば、布施一つとってもですね、慈善の心を起こさずとも、本来はみんな布施しなくてはならないのです。
なぜなら、私たちは他者からいつも布施してもらっているからです。分かりやすいところでは、太陽からほとんど無限のエネルギーを注いでもらっているではないですか。無償の愛ですよね。
そうした自然界は言うまでもなく、親からも子供からも猫からも車からも、私たちはずいぶんといろいろよくしてもらっています。
だから、経済の論理からしても、ちゃんとお返ししなければいけないはずなのです。もらいっぱなしじゃずるい。罪です。
一方でこういう言い方もできます。私たちも実は意識せずともちゃんと誰かに布施していると。猫が私たちを癒そうなどとは思っていないけれども癒してしまっているように(笑)。
しかし、私たちは人間です。おそらくは猫よりも賢いし魂のレベルが高い(…怪しいですけどね)はずなので、やっぱりちゃんと意識しなければならない。
まあ、布施だ檀那だという言葉があること自体、我々が意識しなければ施せない存在であるとも言えますが…。
とにかく、そうやってお世話になっている、おかげさまで生きていることを意識してですね、その分、それをその相手でなくても(たとえば太陽のために何かするのは難しいですよね)、誰かにお返ししなければならないわけです。
この世は「金は天下の回りもの」ならぬ「恩と布施は天下の回りもの」なのであります。
もう一つ言っておきたいことがあります。これもいつか書いたような気がしますが、「人には世話になった方がよい」。これは究極の真理です。
なんでも自分でできる、自立している、自活している、人の世話にならない、という人にロクな人はいない。いや、どうせなら「人に迷惑をかける」くらいの方がいい。
なぜなら、人の恩、人のありがたさを意識できるからです。意識できれば布施として誰かにお返しができます。気がつかなければ、それもできようがありません。
そして、面白いことに、「世話のやける人」「人に迷惑をかける人」というのは、実はその時点ですでに人のために布施していることすらある。
どういうことかというと、世話をする人、尻拭いをする人も、案外いい気分になっているものだからです。「まったくぅ…」とか言いながら、けっこう自己満足している。お礼を言われたり、大変だねと労われたり、偉いねとほめられたり、それが生きがいになっている人さえいますよね。
ダメ人間ほど悟りに近いということです(笑)。いや(笑)じゃなくて、けっこう本気で私はそう思っていますし、そう思うことによって自己肯定しているのであります。
というわけで、私は今日もまたコツコツと布施をして生きているのであった…。
それにしても「布施」っていう苗字はいいですね。うらやましい…いや、オレも立派なダンナか(笑)。
| 固定リンク
「心と体」カテゴリの記事
- 和歌の予言力(2021.04.03)
- 『日本の感性が世界を変える 言語生態学的文明論』 鈴木孝夫 (新潮選書)(2021.03.30)
- ホモ・パティエンス(悩める人)(2021.03.31)
- 『俺の家の話』最終回に嗚咽…(2021.03.26)
- 追悼 古賀稔彦さん(2021.03.24)
「文学・言語」カテゴリの記事
- 和歌の予言力(2021.04.03)
- 『日本習合論』 内田樹 (ミシマ社)(2021.04.01)
- 『日本の感性が世界を変える 言語生態学的文明論』 鈴木孝夫 (新潮選書)(2021.03.30)
- 『三島由紀夫 vs 東大全共闘 50年目の真実』 豊島圭介監督作品(2021.03.28)
- 武藤敬司は世阿弥を超えた!?(2021.03.14)
「歴史・宗教」カテゴリの記事
- 追悼 麒麟児関(2021.04.13)
- 『海辺の映画館 キネマの玉手箱』 大林宣彦監督作品(2021.04.10)
- バッハ 『復活祭オラトリオ BWV 249』(2021.04.08)
- 和歌の予言力(2021.04.03)
- 南海トラフ地震や首都直下地震、富士山噴火。天災リスクのリアル(2021.04.02)
コメント