『閉ざされた言語空間−占領軍の検閲と戦後日本』 江藤淳 (文春文庫)
3月3日、浜離宮朝日ホールで行われる「言向け和す」のシンポジウムにゲストとして登壇する予定です。私は国語学の視点からお話をさせていただこうと思っています。
このイベント、これからの日本の進むべき道を示す大変重要な機会になると思います。当日参加も可能ですので、興味のある方はぜひおいでください。
人間にとって言葉の力というのは実に大きい。プラスの方向に働くこともあれば、マイナスの方向に働くこともあります。
たとえば、戦後、私たちはGHQによる洗脳政策(War Guilt Information Program)によって見事に骨抜きにされました(と言われている)。彼らは「言葉」を操作することによって、私たちを完璧にある方向に導きました(と言われている)。
そのことについての私の考えについては、昨年櫻井よしこさんの『GHQ作成の情報操作書「真相箱」の呪縛を解く―戦後日本人の歴史観はこうして歪められた』についての記事に多少書きました。
その後もいろいろな本を読んだり、いろいろな人からそのことについてお話をうかがいました。そして、多少私の考え方も変わってきています。今日はちょっとそのことを書こうかと思います。
実は、WGIPという言葉自体が日本人による自己洗脳ではないかと、最近思っているんですね。最近もどこかで書きましたが、なんでもGHQのせいにしたり、イルミナティーやコミンテルンの陰謀を持ちだしたり、そういう論調に少し嫌気がさしているんです。
もっと自分たちの責任について正面から考えなければならないと。人のせいにしてばかりではいけないと。
で、このWGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム=戦争についての罪悪感を日本人の心に植えつけるための宣伝計画)という言葉、おそらくはこの江藤淳の「報告書」から世に現れたわけですけれども、どうもこの江藤淳の報告自体が怪しいのではないかと感じているのです。
この考えは全く理論的な根拠があるものではありません。ある意味非常に感覚的、感情的なものです。
いや、私もこの本を最初に読んだ時は、「江藤淳」という文学研究界でのブランドにだまされて(?)、すっかり鵜呑みにしてしまいました。ものすごく詳細ですし、説得力がある文体で書かれているので。
まさに「言向け」された私がいたわけです。まんまとアメリカにやられたなと。
しかし、私は鈴木孝夫さんのこちらの本を読んで、「江藤淳」の実体たる「江頭淳夫」のある側面を知った時、「あっ、これは鵜呑みにしてはいけないな。危ない」と思ったのです。
私は江藤淳(江頭淳夫)さんとはお会いしたことはありませんが、鈴木孝夫さんとは杯を交わしたことがあるので、リアルな鈴木さんの人間性や彼の言葉が持つある種の「調子」というのを、それなりに理解しているつもりです。
その鈴木孝夫さんがあのように辛辣に「江頭淳夫」の人間性を批判している。だから、「江藤淳」の言葉にも気をつけなければならないなと、それこそ直感的に思ったわけです。
櫻井さんの本のところにも書いたように、戦勝国の政策としてはWGIPのようなことがあってしかるべきです。しかし、それが見事に功を奏したという点になると、実はそんなに単純なものではないのではないかとも思うのです。
どうもこの「名著」は「見事」すぎる。見事すぎるゆえに疑わしい。
ご存知のとおり、江藤淳は自殺しました。私の管見からすると、彼は夏目漱石のような「則天去私」の境地にはなれなかったと判断されます。自分の発する言葉に自己洗脳され続け、そしてその城郭が崩れることを恐れて、高い壁を造り続けた(鈴木孝夫さんの話には、江頭が別荘に高い壁を造るエピソードも含まれています)。
結局、江藤さんは自らの「言語空間」に「閉された」のではないか。そんなうがった見方をするようになってしまった私は、いったい誰に洗脳されているでしょうか(笑)。やっぱり自分?
この「名著」について、こんなふうに批評する人はいないかもしれません。いや批評にもなっていない、ただケチをつけているだけでしょうか。ただ、今日の私の言葉たちは、理屈ではなく直観に基づくモノどもであり、そういう意味では自信はないけれども、信頼はできるのです。
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