『日本人は、なぜ富士山が好きか』 竹谷靱負 (祥伝社新書)
今日は富士山の日。午前中は地元山梨の特集番組などをテレビで見つつ、午後は江戸へ。
車と電車で2時間もすれば都心に着きます。江戸時代は何日くらいかけて富士詣りしたんでしょうね、江戸の人たちは。だいたい7日から10日くらいでしょうか。
まあ、ゆっくり旅路を楽しみながらのレジャーだったわけですから、日常を離れるという意味では、ちょうどいいゴールデンウィークだったのかもしれませんね。
そんな富士講の信者を迎える宗教&商業施設であった吉田の「御師(おし)」の末裔である著者の竹谷さん。
以前、竹谷さんの力作「『富士山の祭神論』」を紹介しました。そこにも書いたように、竹谷さんは理学博士で情報工学の専門家です。一方でご実家のルーツとも言える富士山信仰について、大変重要な研究をされてきました。
そんな理学博士による人文的研究の集大成がこの本。集大成でありながら、新書ですので分かりやすくまとめられています。
富士山本は本当にたくさんありますけれども、ある意味それらはどれも同じような話ばかり。その点、竹谷さんの視点は非常に独特であり、また本質的であり、さらに新説も多く含まれていて、富士山学中級者以上にはとても面白く読めます。
第一章「富士山は、両性具有の山である」では「祭神論」が語られます。富士山の祭神と言えば木花咲耶姫だと思われていますが、もともとは赫夜姫(かぐやひめ)なんですよね。これは非常に重要な指摘です。
第二章「富士山は、神仙郷である」では「三峰論」が考察されます。子どもも頂上をギザギザに描きますよね。昔は富士山と言えば三峰で描きました。その意味を考えます。
第三章「富士山は、どこにでもある」では各地にある「ところ富士(ご当地富士)」を文化的に解説します。そうそう、全然関係なくて申し訳ないんですが、今日江戸に行ったのはプロレスを観るためでした。猪木さんのIGFの興行です。で、今日中国の大巨人「泰山」選手がデビューして勝利したんですが、「泰山」とはもちろん、あの山東省の泰山に因んだ名前ですね。その泰山も「山東富士」と呼ばれていたとか。日本の国際化とともに世界中にも「ところ富士」が生まれました。
第四章「富士山は、外国からも見える」も面白かったですね。世界一の山という一種の妄想が、外国のところ富士に先行する形で世界に広がっていたわけですね。朝鮮や琉球からも見えるというように。
第五章「富士山は、世界に誇る山である」でなるほどと思ったのは、北斎の有名な「富嶽と徐福」という肉筆画が、実は徐福ではなく朝鮮通信使の楽士であるという説ですね。私は徐福だと信じきって、それをもとにいろいろ妄想していたところだったので、ある意味ショックでした(笑)。
第六章「富士山は、心の山である」…その言葉を、今日ちょうどテレビの富士山特集でいろんな写真家の方々が口をそろえて言ってましたね。だから難しいのだと。
富士山の再生こそが日本人の心の再生、日本の再生につながるという竹谷さんの言葉には重みがあります。私もそう思います。
そういう意味で、私は富士山の世界遺産登録には単純には賛成できません。あまりに表面的な「文化」しか見ていないからです。江戸時代以前の信仰や伝説、縄文のイコンとしての富士山についてもっと調査してもらいたいのはもちろん、たとえば入会や演習場の問題なども、もっともっと深く論議していかねばならないでしょう。
現在の流れだと「非国民」と言われそうですが、私は今年中に世界遺産にならない方がいいと思っています。
Amazon 日本人は、なぜ富士山が好きか
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