『戦後史の正体』 孫崎享 (創元社)
まず最初に、この本のタイトルは間違っているということを言っておきます。「戦後史のある一面」ではあると思いますが、決して「正体」ではありません。
そういう意味でこの本は取り扱い注意です。しかし、それなりの取り扱い方をすれば、非常に面白い「読み物」にはなります。
今日の記事も、ここ数日の「昭和の裏面史」シリーズになりましょうかね。でも、この本では、その「裏」があまりに明確、明快に語られすぎているんです。「裏」はもっと暗くてドロドロしていているモノでしょう。
ドロドロしたモノを明快なコトにする方法としてよく採られるのが「陰謀論」「陰謀史観」であります。
世間の陰謀論は、陰謀なのにあまりにあからさまという時点で、実はもう立派な「トンデモ」なわけですけれども、人間はそうした「物語」が大好きです(もちろんワタクシも大好きです)。陰謀への不安や憂慮を共有することよって安心を得ようという、非常に面白い文化ですね。
で、ちょっと話が逸れますけれども…今日はバレンタインデーでした。今まで散々、バレンタインデーの裏側(または涅槃会イヴ、あるいは煮干しの日、はたまた金正日誕生日イヴイヴ、などなど)については散々書いてきましたので、今年はちょっと違った角度から2月14日を振り返ってみたいと思います。
ええと…2月14日は「ふんどしの日」です(笑)。煮干しと言い、ふんどしと言い、非常に日本的な臭い、いや匂いのする日ですね。まあ、西洋の文化に振り回されるのではなく、じっくり日本の歴史や文化について考えたいところではあります。
そう、実は今日2月14日はですね、日本のことを真剣に考え、アメリカに楯突いて失脚、そして怪死を遂げたあの中川昭一さんが、イタリアで酩酊会見をした日なんです。2009年のことです。
呪われた中川家とか、アメリカの陰謀にはめられたとか、世間ではそういう言い方もされ、たしかにそういう一面もあるでしょうが、しかし、ことはそんなに単純ではないでしょう。実際に陰謀にはめられたというのが事実であったとしても、それは巨大な規模の「モノ」の一部であって、やはり「正体」ではないと思います。
なぜかこの「戦後史の正体」には中川さんのことは出てきません。これほど「戦後史はアメリカが操っていた」と言うのなら、当然中川昭一さんについても触れられるだろうと思っていたら、その辺はずいぶんとすっ飛ばしてしまっています。
とにかくこの本は、歴代首相をはじめとする日本の政治家を「自主派」と「対米追随派」にデジタル的に分けるのですね。モノをコト化する(つまり物語化する)するために、非常に乱暴な手段をとっていると感じられました。
自分の構築したストーリー(妄想)が先にあって、それに当てはまる事例はどんどん出し、不都合な事例は出さないという陰謀論の常道を行っていると言っていいでしょう。それを承知で読めば実に面白い読み物なのですが、孫崎さんが想定した読者レベルである高校生に読ませるのは危険でしょう。なにしろ彼らは「ムー」の世界も素直に受け入れてしまう無垢さを持っているからです。
私はこういう視点の存在を否定しているわけではありません。歴史を学ぶ入り口として、明快な切り口を用意することは逆に有効であるとさえ思っています。
ただ、そこに納得してから、さあどうやって今度はそれを批判的な目で読みなおすかということが重要です。
学校で使っている歴史の教科書なんかも、ある意味ではこの本と同じ手法がとられているとも言えますよね。歴史というものは本質的にそういうものですし。
あまりに明確、明快なコトは疑えというわけです。自分も含めて世界はほとんど無限に多様で複雑なモノなのですから。
我々教師はそれを教えなくてはなりませんね。特に「国語科」においては。
ところで私は、今回の安倍首相の返り咲きには、中川昭一さんの力が裏側から働いたと感じています。そんなモノは、この本のような切り口ではとても説明できないでしょう。
なんだか全然「戦後史の正体」の正体に迫る記事ではなくなってしまいましたが、まあいいか。真剣に対峙すべき、あるいは退治すべき本でないとも言えるし。
「モノ・コト論」でいつも語っているように、「コトを極めてモノに至る」ことこそが重要です。コトがゴールではないのです。微分されたコトを集積して、最終的に全体像に迫る。とりあえず私の人生の目的はそんなところです。
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