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2013.02.08

やさしい人、やさしい日本…

Url 校現場やスポーツ界、芸能界、そして様々な外交上の問題に触れるたびに、日本の大人はどうなってしまったのかと心配になります。
 時が時であるし、我が身や周辺に降り掛かってきた問題もあるので、残念ながら具体的には言えませんが、様々な大人の行動に「卑怯」や「恥」の概念がないのだろうかと、なんというか落胆というか不安というか、とにかく胸が痛みますね。
 先ほど、水島総さんが特攻隊の精神について語っていました。「散った桜の花はあくまで桜の木の一部である。彼らは自分が日本だという意識があった」…これは極端な例としても、やはり一種の「家族」意識というのは、たしかに今なくなりつつあります。
 私の学校では理事長はじめ全ての教員が「私たちは家族である」ということを強調しています。教員にとって生徒は自分の子どもと同じ。自分の子どもだったらこんな時(親である自分は)どうするか、というのを基本に行動しています。叱る時も褒める時も遊ぶ時も。
 愛情という意味だけでなく、たとえば「卑怯」とか「恥」とか「誇り」とか「正々堂々」とかいう概念についても同様です。自分が親だったら子どもにどんな姿を見せたいか、あるいは見せたくないか。譲れない一線とは何か。
 私たちはそれが当たり前となっていますから、外部に対しても堂々とそういう姿勢を示すことができます。そうすると、最近の大人、いや誰たちとは言えませんけれども(苦笑)、特に教育界の大人たちは不思議と目を伏せてしまいます。どれほど後ろめたい気持ちがあるのでしょうか。
 ということで、ここからは私の専門分野である日本語の観点から、あるべき「日本」、あるべき「大人」の姿について考えてみましょう。
 先ほど「うしろめたい」と書きました。これは古語では「うしろめたし」。「後方(うしろべ)痛し」の転だと言われています。あるいは「後見たし」。とにかく背後が気になる感じですね。不随意のモノ(外部)に対する不安です。
 出かけたあと、あれ?鍵かけたかな?という感じ。自分の不注意に対するマイナス感情ですね。それがもとの意味でした。
 現代語の「うしろめたい」のように他者からの視線、たとえば批判とか軽蔑を想定した気持ちを表すことも平安時代からありましたが、そういう感情を表す形容詞としては「やさし」がよく使われています。
20130209_95909 「やさし」、つまり「優しい」ですね。それがなんで「うしろめたい」のか…不思議でしょう。
 実はこの「やさし」の語源は「痩さし」つまり「やせ細るほど気恥ずかしい」という気持ちなのです。
 ですから「やさしき人」と言えば、「やせ細るほど他者の心を忖度する人」「気遣いが細やかで慎み深い人」という意味でした。
 「やさし」は日本古来(仏教伝来以前から)の精神性を示す言葉なのです。それを良しとしたからこそ、「優」という「優れている」という字を与えられ、また現代語の「優しい」や「易しい」のように快適な状況を表現する結果となったのです。
 まさに自他が一体になった境地。家族的な心でありましょう。それは当然仏教的な自他不二の境地にもつながっていきました。
 前述の桜の話もそういうことでした。自分が国であり、国か自分であるという精神。もちろん単純に戦争や特攻隊を賛美するわけではありません。そういう極端な状況ではなくとも、私たちは日常生活の中で常に他者と一体化して自己の行動規範を決定してきたのです。それは欧米の個人主義、契約社会の対極にある文化と言えるでしょう。
 グローバルな現代において、特に外交やビジネスの世界では、そんな「やさしい」日本ではいけない部分もありますが、だからと言って、この大切な文化を忘れてしまう、あるいは捨ててしまう必要はありません。
 「はづかし」という古語も、ただ単に「恥ずかしい」という意味ではありませんでした。こちらが恥じ入るほどに相手が立派だというニュアンスが強い。
 また「おもなし」という言葉、今で言えば「面目ない」に当たるこの言葉も、相手に合わせる顔がないという感覚です。
 たとえば最近多い「匿名」による他者批判など、もうその行動の前提にこの「おもなし」の感情があるわけですね。
 「やさしい」の意味が変わり、「恥」や「卑怯」や「面目ない」という言葉が日常生活から消えてしまった今。こんな時だからこそ、先人の智慧に学びたいとも思います。謙虚な気持ちで先人と一体化してみることによって、現代の諸問題の解決策を見出すことができるかもしれないのです。
 

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