『アインシュタインの教育観』 寺田寅彦
入試シーズン真っ盛り。迎え入れ(中学・高校の入試)と送り出し(大学入試)は毎年同時にやってきます。一番忙しいけれども、一番の腕の見せ所でもあります。
そして、こういう時だからこそ、毎年このシーズンは「教育」についていろいろ振り返る機会ともなります。
今日も先人に学びました。寺田寅彦とアインシュタインです。
青空文庫を検索すれば、本当にいろいろな先人、賢人の教育観を読むことができます。先日の新渡戸稲造もそうでした。
寺田寅彦の「アインシュタインの教育観」は大正10年に書かれたもの。すなわち1921年。一般相対性理論は1916年に発表されており、翌年1922年にはアインシュタインは初来日を遂げていますから、まあ日本でも「相対論ブーム」「アインシュタインブーム」が起きていたのでしょうね。
当然寺田寅彦も興味を持っていたようで、知り合いからある本を送られて、その内容の一部をこうして発表したようです。共感したんでしょうね。
全文はこちらで読めます。
最近の教育問題にもつながる根本的な問題が提示されていますね。
結局は明治に始まる「講義暗記型」の教育が現代までずっと続いてきていることに大きな問題があるわけで、それは基本的には、日本だけでなく全世界的な問題なのでしょう。
アインシュタインは授業(講義)も上手だったようで、次のような言葉にも説得力があります。寺田寅彦も「耳が痛い」と書いています。私にとっても耳が痛い。ほとんどの教師にとって耳が痛い。
「◯◯嫌いの原因が果して生徒の無能にのみよるかどうだか私にはよく分らない。むしろ私は多くの場合にその責任が教師の無能にあるような気がする。大概の教師はいろんな下らない問題を生徒にしかけて時間を空費している。生徒が知らない事を無理に聞いている。本当の疑問のしかけ方は、相手が知っているか、あるいは知り得る事を聞き出す事でなければならない。それで、こういう罪過の行われるところでは大概教師の方が主な咎を蒙らなければならない。学級の出来栄えは教師の能力の尺度になる。一体学級の出来栄えには自ずから一定の平均値があってその上下に若干の出入りがある。その平均が得られれば、それでかなり結構な訳である。しかしもしある学級の進歩が平均以下であるという場合には、悪い学年だというより、むしろ先生が悪いと云った方がいい。大抵の場合に教師は必要な事項はよく理解もし、また教材として自由にこなすだけの力はある。しかしそれを面白くする力がない。これがほとんどいつでも禍の源になるのである。先生が退屈の呼吸を吹きかけた日には生徒は窒息してしまう。教える能力というのは面白く教える事である。どんな抽象的な教材でも、それが生徒の心の琴線に共鳴を起させるようにし、好奇心をいつも活かしておかねばならない」
全くおっしゃるとおりであります。冒頭の◯◯には本当は「数学」が入るのですが、あえて◯◯にしたのは、そう、どんな教科でもあてはまるからです。あるいは「勉強」という言葉を入れてもいい。
それから、試験嫌いで有名なアインシュタインらしく、「試験=無駄な生徒いじめ」と断じ、「競技的な天才教育」はいけないとしているところも興味深い。
これは勉強に限らず、スポーツなどにおける成果主義にも通じる問題点でしょうね。ある意味、最近の体罰問題、いじめ問題の根幹もそこにあるような気がします。
あと、視覚的な教材をすすめているのも現代的ですね。「知識が体験にならねばならない。この基本方針は未来の学校改革に徹底させるべきものである」。
当時はフィルム(映画)。今ならディスプレイを使ったものとなるでしょうか。おそらくアインシュタインは言語型人間ではなく、どちらかというとイメージ人間だったのでしょう。
こう考えてくると、日本の近現代の教育は、天才を活かさない(殺す)教育だったような気がしますね。
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コメント
今大騒ぎのスポーツ界にしても、
先人の精神をうわべだけ受け継いでいるような気がします。いや、受け継いでいない。
エッセンスだけを身にまとい、解かった振りをしている?もしくは術をしらない?
忘れてしまうんですよね・・・
我が家では息子が算数の単位の総まとめの宿題をしていまして、覗いたら、「1ヘクタールは何平方キロメートル」かという問題がでていて、ドキッとしました。ヘクタールなんて使わないから忘れちゃってます。
でも息子は数の単位では無量大数まで言えます。使わないのにね(笑)
投稿: tadataka | 2013.02.01 12:49