『人間の叡智』 佐藤優 (文春新書)
今読むべき本ですね。
元外務省主任分析官にしてスーパー読書家、博覧強記の佐藤優さんの言葉から多くを学べるのはもちろん、今我々に必要な「叡智」について考えさせられます。
特に「モノ・コト論」を展開しているワタクシとしては、明確なデータとしての「コト」よりも、目に見えない「モノ」を重視せよという提言には全面的に賛成します。
佐藤さんの言葉を借りれば「唯名論」ではなく「実念論」こそが叡智だということですね。「インテレクチュアル」ではなくて「インテリジェンス」。「インテレクチュアル」は経済的には有効です。アメリカは「インテレクチュアル」な国。
一方「インテリジェンス」はゴキブリのはしっこさにも使える言葉だそうです。科学的ではないかもしれないが、確かに(リアルに)存在する能力。
佐藤さんは、これからの国際社会は実念論の時代になると予測します。近代欧米で否定されてきた(イングランドとボヘミアは別らしい)「モノ」世界が復権するというのは、ある意味私と同じ意見ですね。
日本は本来的に「実念論」の国ですよね。今でもかなりそういうところがあり、それが「唯名論」的な国からすると気味が悪い原因となっているようです。
言い方を変えると「日本は神の国でいい」ということです。私もそう思います。だからこそ昨日の記事ではありませんが、テキスト(コト)としての憲法の扱いは難しいのです。
「インテレクチュアル」、あるいはワタクシ的に言うところの「コト」が強くなりすぎると、資本主義、市場原理主義、新自由主義、新・帝国主義が発達します。そこでは、本当の意味での「エリート」が育ちませんし、いても軽視されます。一種の「勘」や「霊感」が働かない社会になっていくんですね。
佐藤さんも「物語」力を重視しています。これも私と一緒ですね。「物語」とはストーリーテリングであり、そこで重視されるべきはアナロジーとかアイロニーだと佐藤さんは述べています。全く同意ですし、私が日頃「比喩力」と言っているのは、まさにそのことです。
マネー教育をしてはいけない…これも我が意を得たりでした。また、専門家(エリート)によってシロウト社会(ポピュリズム)を超えるという発想も大切だと感じました。
読書の推奨、最低でも二つの「古典」を持てというのは、案外難しいことです。私のような国語の先生でも実現できていません。しかし、たしかに、それら古典的な「文学」が持っている一義的でない多様性は需要だと思います。デジタル的な「インテレクチュアル」ではなく、アナログ的な「インテリジェンス」を鍛えるのに「文学」は大変に有効です。
あるいは古典的文学だけではないかもしれません。マンガや映画、音楽などもまた、私たち日本人の「霊性」を保つために有効かもしれません。いわば妄想力ですね。
戦後はそうした「インテリジェンス」が学校現場から排除されてきました。それをどう取り戻すか。我が校のような宗教ベースの学校は比較的それを実現しやすいかもしれませんね。公立学校などにおいても、せめて「芸術」科目をもっと重視してほしいと思います。
紹介記事の掉尾に、この本の最後の部分を引用しておきます。
『日本が元気に立ち直るためには、日本人一人ひとりが言葉の使い方を変えて、国民を統合する物語をつくりだすしかないのです。そして、目に見えないものに想いをはせる。それが叡智に近づく唯一の道だと思うのです』
Amazon 人間の叡智
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