映画 『任侠ヘルパー』 (西谷弘監督作品)
いやあ、いい映画でした!
いろいろな事情と思いがあり、あえて富士宮で観てきました。台風のような暴風雨の中ということもあって、映画館はガラガラ。ちょっと寂しかったけれども、映画は本当に素晴らしかった。
観ている間にもいろいろ考えさせられましたし、観たあとの自分の変化もはっきり感じられました。
男が漢を感じる、いわゆる任侠映画独特の後味もありますが、なんというかなあ、人としての生き方、世の中のあり方、そういう大きなテーマが、「福祉」を扱うことによって、より広く深く描かれていたような気がします。
最近の映画としては本当に久しぶりに「感動」しました。
最新作を公開初日に観るなんていうのは、私にとっては実に珍しいですね。それはなぜかというと…のちほど書きますが、この作品にはなんとワタクシも出演しておるのであります(笑)。
とりあえずそれは置いておいて…というか、本当に自分がどうのこうのなんていうのは、はっきり言ってどうでもいいほど物語世界に没入してしまいました。観る前は自分のことばっかり考えていたんですけどね(笑)。
私は、この映画の前身とも言えるドラマはほとんど観ていません。なんとなくストーリーは知っていたのですが、そういう基礎知識なくとも、この映画は充分すぎるほど楽しめる(学べる)と思います。
「任侠」と「福祉」という、一見全く相容れない世界を結びつけているように思えるこの映画、実はものすごく人間社会の本質的な部分に迫っている作品です。
もともとの「任侠道」は彼の言うように「弱きを助け強きを挫く。命を捨ててでも義理人情を貫く」ですから、実を言うと非常に親和性があるんですよね。
このブログでもずいぶん書いてきたとおり、私は「やくざ」を文化と宗教などの面から研究してきました。現代的な暴力団や不良やチンピラとは違う日本古来の「やくざ」社会が果たしてきた大切な役割を、真剣に学んできました。それが平成になって一気に後退してしまった。そこに危機感を覚えています。
この映画でもそういうテーマが扱われていました。日本の砦の一つであった本来の「任侠」世界が、資本主義市場経済の原理やテキスト化された人権や自由という概念に呑み込まれてしまった。そして、グレーゾーンたるアジールが吸収していた世の中の矛盾や病理が、一般社会に滲出してしまった。そこに対する危機感に一つの焦点が当てられていました。
また、高齢者福祉の闇の問題をも抉り出します。家族愛や敬老の念という「心」までが、金(マネー)に吸収されていく恐ろしさ。
そうした社会的な問題の上に、個々人の「生き様」の問題をうまく重ねあわせて描いていますね。もちろん、限られた尺の中で、多くの人生を描ききることは難しいと思いますが、観客に想像の余地を残すという意味においても、適度な人物描写がなされていて、そこもまた「映画的(非テレビドラマ的)」であったと思います。
そう、ドラマの続編という種類の映画の中では、ちょっと特殊な作品と言えるかもしれません。監督さんはドラマと同じですが、主役の草彅(なぎ)剛くん以外のキャストはほとんど総入れ替え。それは監督さんの「映画」を創るぞという意気込みの表れだったのでしょう。
その役者さんたちが皆さん見事でした。草なぎ君も素晴らしかったけれども、脇を固める役者さんの演技に勢いと深みがあり、現場でお互いが刺激しあっていったであろう雰囲気が伝わって来ましたね。
特に風間俊介くんはとてもいい演技をしていたと思います。私が参加したロケでも彼の才能の一端をうかがい知れましたけれども、作品全編にわたって素晴らしい味を出しており、あらためてこれはホンモノの「タレント」だなと感じました。
「優しさ」と「怒り」は表裏一体、「思いやり」と「暴力」も不思議と切り離せない…普段やくざ文化やプロレスなどに接し、また教育に携わっている者として、そんなことを痛感しました。それを表現できる役者が草彅剛、そしてその他のキャストの皆さんだったのでしょう。
最近、学校でですね、文化祭に向けて、恒例の「実写版うる星やつら」を撮影したり、演劇の指導をしたりしてますので、プロの仕事のすごさ、厳しさを強く感じる結果にもなりました。
(→当日のワタクシですw)そう、昨年の12月に山梨の某所で行われたこの映画のロケにエキストラとして参加したのですが、その時ももちろん、その厳しさと言いますかね、緊張感を存分に感じたんですよね。
あの寒空の下、丸一日かけて撮影したシーンは、本編ではほんの10秒足らずでした。冒頭の翼彦一が出所するシーンです。別の組関係者の出所を出迎えるヤクザの役でした。おかげさまで、小さいながらもしっかり映っていましたし、「ご苦労様でした!」という私の声も採用されておりました(笑)。
さらに、私自身でもほとんど視認不可能ですが、出所して歩き出す彦一を黒塗りの車がクラクションを鳴らしながら追い越していくシーンで、彼がにらみつけているのは、車の助手席に乗っているワタクシであります。草なぎくんとガチでにらみ合ったこのシーンがしっかり使われていたのは嬉しかった!(下の動画にもそのシーンが出てきます)
私自身、この素晴らしい映画の中に参加することができ、とても光栄です。ご縁をありがとうございました。
ま、そんなことはいいとして、本当にいい映画ですから、皆さんぜひ劇場でご覧ください!そして、それぞれの感想を抱いてください!
以下にwowowでの紹介番組の動画を貼っておきますが、けっこうネタバレなのでご注意を。
追伸 11/20、今度は沼津にて二度目の鑑賞。涙の量は一回目の数倍。また観たい!
テーマは「家」ですね。居場所、認めてくれる人のいる所。それを求めてさまよい続ける翼彦一が、他者にそれを与える物語。美しい。
終演後のつぶやきです。
『任侠ヘルパー2回目。うーん、ますます深みを増す感動。これは文句なく名作ですわ。また観たい!西谷監督の創造力、編集力半端ない。それに応えたキャスト、スタッフ皆すばらしい!』
そして驚いたのは、公式ポスターにワタクシが映っていたこと(笑)。右奥のスキンヘッドの男です。このシーンは本編ではカットされていました。ちょっと…いや、かなり嬉しい!
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 『ウルトラ音楽術』 冬木透・青山通 (集英社インターナショナル新書)(2022.05.22)
- 『シン・ウルトラマン』 庵野秀明 脚本・樋口真嗣 監督作品(2022.05.19)
- 笑点神回…木久蔵さん司会回(2022.05.15)
- 『教祖・出口王仁三郎』 城山三郎(その7)(2022.05.09)
- NHKスペシャル 『東京ブラックホールⅢ 1989-90魅惑と罪のバブルの宮殿』(2022.05.01)
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- THE BOOM 『島唄』(2022.05.16)
- NHKスペシャル 『東京ブラックホールⅢ 1989-90魅惑と罪のバブルの宮殿』(2022.05.01)
- ひろゆき&成田悠輔(&パンダ)vs 泉健太 立憲民主党代表(2022.04.10)
- 菅義偉 前首相を正しく評価せよ!(2022.04.04)
- ゼレンスキー大統領の国会演説をキエフ市民はどう聴いたか(2022.03.26)
「心と体」カテゴリの記事
- ジャンボ鶴田さん23回忌(2022.05.13)
- 『教祖・出口王仁三郎』 城山三郎(その8)(2022.05.10)
- お金の力(2022.04.30)
- 『都道府県別 にっぽんオニ図鑑』 山崎敬子(ぶん)・スズキテツコ(え) (じゃこめてい出版)(2022.04.24)
- いのちの歌(2022.04.15)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 『シン・ウルトラマン』 庵野秀明 脚本・樋口真嗣 監督作品(2022.05.19)
- みうらじゅん×山田五郎 『仏像トーク』(2022.05.18)
- マカロニえんぴつ 『星が泳ぐ』(2022.05.17)
- THE BOOM 『島唄』(2022.05.16)
- 笑点神回…木久蔵さん司会回(2022.05.15)
「教育」カテゴリの記事
- 『頭のよさとは何か』 和田秀樹・中野信子 (プレジデント社)(2022.05.20)
- 松浦亜弥 『ずっと好きでいいですか』& MC(2022.04.28)
- 『トラさん~僕が猫になったワケ~』 筧昌也監督作品(2022.03.18)
- 占守島の戦い(2022.03.15)
- FACT LOGICAL『日本の“教育問題”を大激論!(2)』(日経テレ東大学)(2022.03.08)
「歴史・宗教」カテゴリの記事
- この世界を支配する“もつれ”(2022.05.23)
- 『ウルトラ音楽術』 冬木透・青山通 (集英社インターナショナル新書)(2022.05.22)
- みうらじゅん×山田五郎 『仏像トーク』(2022.05.18)
- マカロニえんぴつ 『星が泳ぐ』(2022.05.17)
- THE BOOM 『島唄』(2022.05.16)
コメント