春は花…道元禅師の歌
春は花夏ほととぎす秋は月冬雪さえて冷(すず)しかりけり
昨日に続き、道元禅師のお言葉。時間がない時は他力に頼ります。
これは道元の和歌です。この歌のシンプルさはすごい。
いちおう短歌をやっている歌うたいとしては、この歌にはもう脱帽するしかありません。脱帽しようにも帽子を被ってないので、では剃髪しようということで、今坊主になりました(笑)。
いや、冗談でなく、道元さんの言葉は重い…いや、重いのに無重力状態なんですよね。お分かりになりますでしょうか。
この歌を読んでもお分かりになると思います。
「だから何?」
ですよね。
春は花、夏はほととぎす、秋は月、冬は雪…あまりに当たり前すぎて、意味の意味たる質量さえ感じないほどです。
そして、なんといっても「冷しかりけり」が素晴らしい。春、夏、秋と淡々と風物の名詞を並べておいて、最後に動詞と形容詞と助動詞で一気にたたみ込む。雪が冴えて「すずしい」ではないか、「すずしい」のであった、と。冴えて「冷し」ですから、この「すずし」は「涼しい」ではなくて、「すがすがしい」でしょう。
うまい…いや、あまりに自然。
私にはとてもこんな歌は作れません。いや、作ろうとするとこういう歌は詠めない。
私なんか師匠からしょっちゅう「技巧的」「テクニシャン」とお叱りを受けます。そういう人間なんですよね、私は。不自然なんです。
「すがすがしい」のは、おそらく冬の雪だけでなくて、その前の春の花、夏のほととぎす、秋の月も、あまりに堂々と自然体であり、恒常であって、すがすがしいのでしょう。
この自然体こそ禅の教えそのものです。あまりに当たり前な繰り返しの中に、我々の生命の本質を見る。ことさらに「作る」必要はないのです。
自らも、それら風物のように、自然の中で自然にありたい。そんな望みと決意が感じられる、それこそ「すずしい」歌であります。
私もこういう歌を詠みたいものです。
ちなみに上の書は川端康成によるもの。川端はあのノーベル賞受賞記念講演「美しい日本と私」で、最初にこの歌を紹介したのでした。
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コメント
春は花夏は無花果
秋しぶ柿冬手作りの干し柿が懐かし
幼い頃住んだ、庭を思い出しました。
初短歌で、お恥ずかしい…
投稿: tadataka | 2012.11.20 23:26