『美について』 今道友信 (講談社現代新書)
種を蒔いてくれた方がまた亡くなってしまいました。先日丸谷才一さんをお送りしたばかりなのに。
私と「美学」との関わりについては、「美学への招待」の記事に詳しく書きました。そう、この佐々木健一さんの「美学への招待」は非常に分かりやすい名著でしたが、今道友信さんのこの「美について」は対照的に非常に難解でした。
私はこの難解な名著を高校時代に読んだ結果、その難解さのゆえ「美学」「哲学」への憧れを持つに至り、一方では「哲学」「美学」への道を諦める予感を抱くに至ったとも言えます。
この複雑な「種」は、今見事に美しい花を咲かせている…わけではなく、どちらかというとアヤシイ色香の花を咲かせてしまったかもしれませんね(笑)。
そう、私はいまだに中二病なので、この歳になってもまだその憧れを捨てきれていません。ある種の狂い咲き状態ですから、それはアヤシイ限りです。
しかし、面白いものですね。この本で今道さんが語っているとおり、「美」の享受には感性だけでなく、教養も必要なのです。たしかにこうしてそれなりに歳をとることによって、教養というにはずいぶんと陳腐だけれども、妙な知識と経験だけは積み重ねましたから、間違いなく高校生の時よりはずっと「美」に対する理解は増したと思います。
そして、さらに理解だけでなく、かっこ良く言えばですね、「美」との一体感というか、それもまた増した気がしますね。今道さんも言うとおり、おそらくは「美」に対する「愛」が深まったのでしょう。人と長く接していると、自然愛情が深くなるように、美…たとえば音楽や絵画…に対しても、情が湧いてきたのでしょう。
そう考えると、私は今道さんが蒔いてくれた発芽の難しい種を、なんだかんだゆっくりじっくり懐で温めているうちに、いつのまにか発芽させていたということでしょうか。
高校時代、若気の至りながらも自分なりに真剣に悩んだ、音楽の美とは、造形の美とは、言語の美とは、自然の美とは、人生の美とはという難問こそが、結局は一生のテーマだったようです。
そんな素晴らしい種を蒔いて下さった今道友信さんに心から感謝したいと思います。
ご冥福をお祈り申し上げます。
Amazon 美について
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