『拉致と決断』 蓮池薫 (新潮社)
発売すぐに一気に読んでしまったのですが、いろいろ忙しくて記事にするのが遅くなってしまいました。
この本はすごい。なんとコメントしていいものやら。
10日前に、蓮池薫さんの出演された『10年目の告白~蓮池薫さん“拉致”解決への思い~』について書きました。
あの時も「これは簡単に論評したり感想を書いたりできないな」と書きました。あの番組にも大変な衝撃を受け、なんと表現していいものやら大きな迷いを抱えてしまいましたが、こちらはもっとすごかった。
実際たくさん売れて、たくさんの方が読んでいることと思いますが、アマゾンのレビューの数が増えないのは、おそらくは私と同じように、言葉が出ない、まさに筆舌に尽くし難い気持ちになっているのだと思います。
「拉致」というあまりに想定外で不条理な運命に翻弄されつつ、それでも生きなければならない、守らなければならない立場にあって下した無数の「決断」。
そう、私たち日常を過ごしている者にとっても日々はたしかに「決断」の連続ではあります。しかし、さすがにその重さが違いすぎる。
「◯◯と決断」という言葉は、ある意味ではいくらでも作ることができるけれども、さすがにそこに「拉致」を入れて共感することは難しい。
共感が難しいと、我々はそれを興味の対象にしてしまいがちです。何か自分の世界とは違う夢物語を、まるで対岸の火事を見るかのように受け取ってしまいます。それしか享受の方法がないとも言える。
いろいろ妄想してしまうのもそのせいだと思います。このタイミングでこれだけ表沙汰にできるのは、それなりの裏沙汰があるからではないかとか、語られる「子どものため」の多くの「決断」の裏にも何かが蠢いているのではないかとか、この本に書かれていないからこそ想像される帰国を果たせない他の拉致被害者の情報とか…。
こうした私の勝手な想像が、その通り勝手な想像なのか、それともある程度可能性のある推測なのか、それは全く分かりませんが、それでも私は、この本に書かれている情報を元に、「良い」想像をしたいと思いました。
この本は、そのための蓮池さんの渾身の告白、ある意味では命懸けの「決断」であると捉えたい。それでなければ、あまりにやるせないのてす。それほどまでに、あまりに現実のものとは思えぬ辛さであり、酷さであり、厳しさなのです。
そして、それらと表裏一体のたくましさ。人間のたくましさ。命の強靭さをも感じました。与えられた運命の中で「生きる」、「生き延びる」、「死なない」力。
数奇な運命…そんな使い古された言葉では表現しきれない「現実」。さあ、私たち日本人は、日本国は、この「現実」とどこまで向かい合っていけるのでしょうか。
戦争の精算すらしかとできなかった日本。ある意味では、それが「拉致」という不幸を再生産してしまったとも言えます。さすがに今回は真剣に精算しなければならないでしょう。
私は私の運命としっかり向かい合って行きたいと思います。他人事と言って安全地帯から眺めてはおれぬ運命、現実としっかり対峙していかなければならないと痛感しました。
この本を出版した蓮池さんの「決断」「勇気」「お役目」に敬意を表します。
Amazon 拉致と決断
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