『スティーブ・ジョブズ名語録』 桑原晃弥 (PHP文庫)
スティーブ・ジョブズが亡くなって1年になります。
昨年の今日の追悼記事に書いたとおり、私は彼を技術者や経営者とは考えていません。出口王仁三郎のような「世界改造業者」、すなわち宗教家であり芸術家であり夢想家であったと思っています。
今日は我が校で若手対象の研修会が行なわれました。非常に示唆に富む内容の研修であったと思います。いつもながらでありますが、教員の世間知らずぶりを痛感しました。
その中で、イチローの小学校6年生の時の「将来の夢」が取り上げられていました。数億分の1の天才の少年時代の夢と凡人の私たちの夢を同列に並べるのはどうかというような結論になっていましたが、私はある意味では、天才たちの「夢」にこそ学ぶべきものがあると思います。
違う言い方をするなら、「世界を改造する」レベルの壮大な夢(妄想)を持ち続けることができる人を天才と呼ぶのかもしれないということ。
そういう意味で、私たちは天才になれなくとも、天才に近づくことはできる。限りなく天才に近い凡人になれるかもしれない。
いや、天才の夢なんて、それは特殊なケースでしょと言った途端、私たちは凡人の中の凡人で終わることを選択してしまいます。つまり、世界に(良い)影響を与えることなく、せいぜい自分の半径20メートルの中で生きていくことになるのです。
別にそれでもいいじゃんと言う方がいても、もちろん問題ありません。しかし、人は生まれた時から、実はどんどん外に向かって広がっていこうという意志を持っているのもたしかです。
自分とごく周辺の狭い世界で生きることには、不思議な寂しさが伴うものです。だから、そうなりたくないという本能が働いて、たとえばこの「スティーブ・ジョブス名語録」なんかを読むことになるのでしょう。そうして、本来の可能性を思い出そうとする。
というわけで、私もご多分にもれず、一周忌の日にこの本を読んでみました。2時間もあれば読める量ですからお手軽です。
非常に印象的だったのは、やはりジョブズが宗教家的(王仁三郎的?)に、強烈な夢想力を持っていたこと。そして、それと連関して、やはり「予言者」的であったということですね。
ここのところのマイブームである「時間は未来から過去へと流れている」「良き未来をイメージせよ」という仏教的な視点からすると、ジョブズはまさに真の宗教家であったと言えそうです。
同僚の言葉や桑原さんの解釈も含め、いくつかの名言をピックアップしてみましょうか。
「(プロホッケー選手グレツスキーの言葉を引用して)『私が滑り込んでいく先はパックが向かっていくるポイントであり、パックがあったところではない』」
「何が起こるかをぴたりと当てることはできない。しかし、我々がどこへ向かっているかを感じることはできる。それにはけっこうな精度がある」
「次にどんな夢を描けるか、それがいつも重要だ」…もう変わらない過去より、これからどう変わるかという自由な発想が大切だ(桑原)。
「(同僚の比嘉ジェームスの言葉)スティーブは、水平線のかなた、数千マイルも向こうを見ることができます。でも、そこにいたるまでの道がどうなっているかは見えないのです。これがスティーブの才能であり、失脚の原因です」
「どうしてみんなわからないのかな? 僕にはよく見えているんだけどなぁ」
「あとは一歩下がってよけいなことをしなければ、ものごとはひとりでに進んでいくものだ」
「(大方の予想を裏切ってアップルの株価がデルのそれを上回った時の言葉)マイケル・デルも未来を予想できるわけじゃない」…たいていの人は現在の延長線上に未来を描こうとする。だが、ジョブズにとっては未来は変えるものだった(桑原)。
「人がすぐれた仕事をできないのは、たいていの場合、彼らがそう期待されていないからだ。誰も本気で彼らのがんばりを期待していないし、『これがここのやり方なんだ』と言ってくれる人もいない。でも、そのお膳立てさえしてやれば、みんな自分で思ってた限界を上回る仕事ができるんだよ。歴史に残るような、本当にすばらしい仕事がね」
どうですか。やはり彼は未来(上流)にビジョンを描き、すなわちイメージボールを投げ続け、それが流れてくるのを待っていたという感じがしませんか。つまり、未来を変えていったということです。それはもちろん自分自身の未来でもあり、同僚の未来でもあり、会社の未来でもあり、世界の未来でもあったのです。
ジョブズが曹洞禅を学んだことと、こういった発想や行動とは、やはりどこかでつながっているのでしょう。どちらが先か分かりませんが。
彼の肉体はたしかに地球上から消えてしまいましたが、その魂(スピリット)は今も生き続けています。彼が夢想したように。
そう、私たちは、彼が水平線のかなたに投げたボールを、これからもずっと受け取る権利を持っているのです。
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