「赤とんぼ」は盗作か?…山田耕筰とシューマン
今日は敬老の日。近くの老人ホームにて家族(+α)でお祝いの演奏をしてまいりました。夏に演奏させていただいた施設です。おかげ様で納涼祭の評判が大変よろしく、今回もう一度ということでお声かけいただきました。
今日はデイサービスの方がほとんどだったので、基本前回と同じプログラム。またまた歌って踊って笑って泣いての大変充実した会となりました。何度も言いますが、歌の力ってすごい。
ホント泣いてくださっている方多数、「もっと歌いたいよう」と言ってくださる方もいて、私たちとしてもうれしい限りでありました。
さて、プログラムの途中、「秋の童謡・唱歌」を何曲か演奏しました。その中の1曲が「赤とんぼ」。演奏の、というかお年寄りの皆さんの様子をフラッシュ動画にしましたので、ぜひご覧(お聴き)ください。
この山田耕筰によるメロディーは、日本人なら誰でも知っている、日本文化を代表するものですね。
ところが!
この旋律には、ある疑惑があるのです。有名な「赤とんぼ騒動」です。ご存知の方もいらっしゃるでしょう。
この「疑惑」が明るみに出たのは、あの吉行淳之介の書いた文章がきっかけでした。「赤とんぼのメロディーは、シューマンの『ピアノと管絃楽のための序奏と協奏的アレグロ 作品134』に18回も出てくる」という内容の随筆です。
それに石原慎太郎も呼応して「ドイツの友人によるとあれはドイツの古い民謡だ」と言い出したからさあ大変。山田耕筰自身も巻き込んで大騒動になりました。
その辺の詳細については、ネット上にもたくさん情報があるので、検索してみてください。
私は音源と楽譜で確認してみたいと思います。本当に「盗作」なのか?
とにかく、シューマンの「ピアノと管絃楽のための序奏と協奏的アレグロ 作品134」を聴いてみましょうか。なんとも退屈な曲ですが(笑)。
そう、退屈だ、早く核心に迫りたいという方は下の動画の3分30秒地点にジャンプ!
うわっ!まんま「赤とんぼ」だ!…ですよね。
その部分を楽譜で見てみましょう。まずはピアノで「赤とんぼ」の主題が提示されます。和声に埋もれてやや聞き取りにくいけれども、その後ご丁寧にフルートとクラリネットによって鮮明に奏でられます。
↓click!
アウフタクトの音を除いて、基本「赤とんぼ」前半と同じ音の並びですね。
う〜む、これはさすがに…。
山田がシューマンのこの曲を知っていてあえて流用した、というのは考えにくいですね。意識的「盗作」はないでしょう。
可能性があるとすれば、どこかで(たとえば留学先のドイツで)シューマンの曲、あるいは元ネタとなった古民謡を聴いていて、無意識のうちに使ってしまったということでしょうか。作曲家にはよくあることです(というか、ほとんどの作曲作業はそれだとも言える)。
たしかにロマン派は「ロマン」の表現技法として古いペンタトニックの作法を多用し、また実際の民謡の旋律を多数拝借していますから、シューマン自身による意識的「盗作」である可能性もあります。しかし、本当にドイツの民謡に「赤とんぼ」(?)があるのかは確認されていません。
しかし、よく考えてみると、この「赤とんぼ」前半のメロディーは、ペンタトニック(四七抜き)としては特に特徴的というわけではありませんよね。ある意味自然発生しやすい流れです。つまり「事故」というか「偶然」の可能性も捨て切れません(案外その可能性が高いのでは)。
音楽(特に楽譜に記録できる音楽)においては、これら「盗作」の危険性は時代とともに増すばかりです。音楽の歴史、進化というものは、実はその危険性との対決の結果であるとも言えるのです。その点、ロマン派なんかめっちゃ苦労してる感がありますよね(笑)。
このようにいろいろと疑惑やら騒動やらがありましたが、「赤とんぼ」のメロディーはやはり世界に誇るべき名作だと私は思っています。しかし、その私の評価は、実は「前半」ではなく「後半」の魅力によるものなのです。
「後半」を歌ってみてください。あの美しい抑揚、うねりは、まさに山田耕筰ならではのものです。シューマンには絶対に作れません。民謡として自然発生する可能性も低いでしょう。
というわけで、私にとっては、「前半」が「盗作」であれ何であれ、「赤とんぼ」の価値は下がらないのであります。
ついでに「赤とんぼ」のメロディーとアクセントの問題についても触れたいところですが(いちおう旋律とアクセントの関係論で卒論書きましたので)、長くなるのでまた後日。これについても、ネット上の説とは違う考え方をしております。
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