追悼 山田五十鈴…『東京暮色』より
日本文化を支えていらした女性のお一人、山田五十鈴さんがお亡くなりになりました。
五十鈴さんの経歴や功績を紹介するとなると、東宝の映画群、あるいは新劇の舞台群を挙げなければなりませんが、あえて私はこの小津安二郎作品を紹介したいと思います。
この「東京暮色」は、当時すでに溝口作品や黒澤作品などを通じて大女優だった五十鈴さんが、唯一出演した小津作品です。
単にそういう意味でもレアな仕事の一つと言えるかもしれません。しかし、それよりなにしろ、この「東京暮色」での雀荘の女主人喜久子役がなんとも渋いんですよね。ものすごくいい演技をしていると私は思います。
小津作品の中でも「失敗作」として名高い(?)この「東京暮色」。今観ると、まさに現代を象徴するような暗さに満ちた作品ですね。昨日の超「脳」力の話で言えば、やはり小津安二郎は「予言者」だったわけですね。
まあそれにしても暗い映画ですなあ。戦後10年やそこらで、もうこんなに現代的になっていたんですね、日本は。ちょっとあらすじを読んでみてくださいよ。wikiから拝借。
杉山周吉(笠智衆)は銀行の監査役を勤め、男手一つで二人の娘を育ててきた。ところが、姉の孝子(原節子)が夫との折り合いが悪く幼い娘を連れて実家に戻ってくる。妹の明子(有馬稲子)は大学を出たばかりだが、遊び人の川口(高橋貞二)らと付き合ううち、恋人の木村(田浦正巳)の子をみごもってしまう。木村は明子を避けるようになり、明子は木村を捜して街をさまよう。中絶の費用を用立てするため、明子は叔母の重子(杉村春子)に金を借りようとするが断られ、重子からこれを聞いた周吉はいぶかしく思う。
その頃、明子はとある五反田の雀荘の女主人喜久子(山田五十鈴)が自分のことを尋ねていたことを聞き、実際に話もして、その女性こそ自分の実母ではないかと姉の孝子に質すが、孝子は即座に否定する。しかし、重子の口からやはり喜久子が都内にいると聞いた孝子は自ら喜久子のところへ赴き、明子には母であることを告げないでほしいと強く頼む。喜久子はかつて周吉が京城(ソウル)に赴任していたときに周吉の部下と深い仲になり、夫と幼い娘たちを出奔した過去があったのだ。
明子は中絶手術を受けた後で、喜久子がやはり自分の母であることを知って喜久子の元に赴き、自分は本当に父の子なのかと母を質す。喜久子は間違いなく明子が周吉の子であるというが、「不義の女性」の血が自分に流れていることがかえって明子を絶望させる。明子は場末の中華料理店で不意に木村と出くわすが、その不誠実な態度にも絶望し、木村を激しく叩いて店を飛び出す。明子は鉄道にはねられ、瀕死の重傷を負う。駆けつけた父と姉の前で明子は「死にたくない」ともらすが、息をひきとる。
孝子は一人喜久子の元に赴くと明子が死んだことを伝え、すべて母の所為であると言い放つ。「自分の子どもに片親の苦しみを味わわせたくない」と孝子は意を決して夫の元に戻り、喜久子も現在の夫と共に東京を離れて北海道へ赴く決意をする。周吉はひとり日常生活へ戻っていく。
こんな天才の予言をよりリアルなものにしているのが、山田五十鈴さんの演技であると思います。
思いがけずYouTubeにその大切なシーンがありましたので、ぜひ御覧ください。
う〜む、素晴らしい女優さんでしたなあ。私にとっては、まさに「日本の女性」という印象でした。また昭和は遠くなっていきました。いや、五十鈴さんが演じた「日本の女性」はもっともっと遠くの風景、女性像だったのかもしれません。
ご冥福をお祈りします。
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