『悪者扱い』 十五代目時津風親方(山本順一) 竹書房
大相撲マニアの生徒が貸してくれました。
ちなみに著者の元時津風親方は昨年8月に懲役5年の実刑判決が確定しています。あの、時津風部屋力士暴行死事件ですね。
なんとも後味の悪い本であります。どう好意的に読んでも言い訳にしか感じられません。
協会やマスコミ、警察、検察、そして弟子たちの問題点もよく分かりますが、ここまで一方的に他方を責める内容になると、ある意味タイトルどおり自分以外を「悪者扱い」しているだけに見えてしまいます。これでは有罪になってもしかたない。
前半の八百長論には納得しました。いわゆる八百長は昔からあったけれども、今の八百長は軽すぎると。昔はケツ決めがあったとしても、その中身は真剣勝負だった。昔の力士にはそれができる力量があったということで、これはそのまま、プロレス界にも通用すると感じました。
単なるガチとヤオという二元論では片付けられない、ある種「武士道」的な、すなわちスポーツとは違う精神的世界、あるいは宗教的世界があったわけですね。
それが内部からも外部からも腐り、崩れてきた。力士やレスラー自身の甘えやおごりもありましたし、我々享受する側が「野暮」になったということもありました。そして、一気に崩れてしまった。
なんといいますかね、相撲にせよプロレスにせよ、これはホンモノなのかドラマなのかという、まさに虚実皮膜の間に生じる興奮や陶酔…おそらくそれが日本的な宗教の世界なのでしょう…がなくなってしまったんですね。予定調和やマニュアル主義の蔓延です。
私もこのブログでもずっと語ってきたように、相撲やプロレスは本来神事であり、単なる勝敗を超えた文化的存在です。一方近代スポーツは土俗的なゲームの中から宗教性を排除して成立しました。当然、グローバル資本主義・市場経済のもとでは、スポーツの価値観の方が有効性を持ちます。
ことは相撲やプロレスに限りません。様々な分野で(たとえば教育でも)同じことが起きています。それが日本の危機の根本的原因であると、私は真剣に思っています。
そういう意味では出版界も、矜持というか志というか、何か大切なモノを失いつつありますね。こういう本がポンポン出ることもそうですけれども、なにしろ誤字脱字(逆にいらぬ文字が入っていることも)のひどいこと。ざっと見ただけでも、この本の中に5箇所以上誤りがありました。
一番ひどいのは…「解雇処分」が「蚕処分」になっていました。もう笑うこともできませんでした。がっかりです。
私のこのブログも誤字脱字や誤変換の嵐で、よく生徒に指摘されたりするんですが(苦笑)、まあ、書き下ろしで読み直しも推敲もしていないブログ記事と、パブリッシュされる(つまりお金を取る)書籍とは、さすがに間違いの「価値」が違うでしょう。
Amazon 悪者扱い
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