追悼 吉田秀和
「名曲のたのしみ。吉田秀和。僕は先週の22日に突然死んじゃった」
「亡くなった」と書かないのは、彼自身、人の死の事実に対して、決して「亡くなった」と言わなかったからです。「死んだ」と言うんですね。そこには彼はこだわりを持っていた。だから、私もあえて「死んだ」と書かせていただきます。
先々週、本当に久しぶりに「名曲のたのしみ」を生で聴いて、あれ〜吉田秀和、いったい何歳なんだ?と思ったばかりだったのになあ。たぶん20年ぶりくらいにフルで番組聴きましたよ。ラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番。初めて聴いてしまいました。「四分の三(しぶんのさん)拍子」…最後の吉田節になりました。
彼の音楽評論にはほとんど興味がありませんでした。あえて避けてきた部分もあるなあ。音楽の内容と体験を言語化することに、昔は非常に抵抗がありました。今では、このブログでさんざん書き散らしていますが。
いや、そういう意味ではライバルだったのでしょうか(笑)。小林秀雄に対する拒否反応と一緒かなあ。もちろん、私と彼らのレベルは違いすぎるわけですけど、どこか軍門に下りたくない自分がいたのも事実です。
案外に古楽やピリオド楽器演奏にも理解が深い方でしたね。たしかにそういう懐の深さというか、広さは持っていたかもしれません。
とはいえ、私はほとんど彼の音楽評論を読んだことがないのは事実です。どちらかというと、大学入試の国語の本文で文明論などを読んだ記憶しかありません。
あとは相撲かなあ。彼の相撲論は、私の中の音楽論やプロレス論と重なります。そこはなんとなく不思議かも。実は影響受けてるとか。
『相撲は勝ち負けがすべてではない。鍛えに鍛えて艶光りする肉体同士が全力を挙げてぶつかる時、そこに生まれる何か快いもの、美しく燃えるもの。瞬時にして相手の巨体を一転さす技の冴え、剛力無双、相手をぐいぐい土俵の外に持ってゆく力業。そういった一切を味わうのが相撲の醍醐味。
それに花道の奥から現れ、土俵下にどっかと座り腕組みして、自分の取組を待つ姿から土俵上の格闘を経て、また花道をさがってゆく。その間の立ち居振る舞いの一切が全部大事なのだ』
そして、彼の昭和臭ぷんぷんの日本語にも影響を受けたかもしれません。彼一流のなんとも嘘臭い文体(内容ではない)、正直好きだなあ。
98歳。突然の死。ある意味彼らしい。たっぷり時間をかけて豊かな言葉を大量に残し、そして最後はあっさりと。「それじゃまた来世。さよなら」
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