追悼 吉本隆明
また一つの時代が遠くなりました。我々がそれを「昭和」と呼ぶ時、すでにそこは吉本隆明さんの言う「共同幻想」の原理が働いています。
エセ思想家の私に言わせると、その「共同幻想」とは、実は非常に単純な「懐古趣味」にほかなりません。「懐古主義」ではありません。「趣味」です。
そういう意味で、今日、吉本さん自身も立派な共同幻想の象徴となりました。
彼の一見先鋭的であった「思想」が、実はそういう「趣味」に立脚したものだということを、私は比較的新しい著書によって確認していました。
以前紹介した『思想のアンソロジー』です。その記事でも引用した、彼の「出口王仁三郎」論をもう一度読んでみましょう。
「天然自然のすべてを万霊とする未開的な宗教性のうえに、仏教、儒教、土俗道教などの信仰や倫理を混合したものだが、王仁三郎の気宇の巨きさで、自在に伸縮される容器を具えているといえよう…野放図すぎる柄の大きさをしめしている。いいかれば、里の活き神信仰としての大本教の反知識性と破れを繕うことをしない庶衆の姿勢が、総合、融和されて出ている。いくらでも侮れるが、侮っても裂け目から、また芽が出てくるような気がして、永遠のたたかいの場を提供しているとおもう」
この文に、私は彼の本質を見ました。一言で言ってしまうと、つまりは「いやあ、この人、ホントに人のいい日本のおじいちゃんだな」ということです(笑)。そう、ある意味では、戦後、出口王仁三郎的世界、いや、出口王仁三郎的日本人を引き継いだのは吉本隆明さんだったのかもしれません。
くしくも今日、新幹線の100系と300系が引退しました。
時代の思想とは乗り物のようなものです。昭和の乗り物は高速鉄道でした。みんなが同じ方向に向かって同じ線路の上を駆け抜けて行きました。
今は、自家用車の時代なのでしょうか。好きな時に好きなところを経由して好きなところに行く。結果として同じところに集まるにしても、そのプロセスに「共同体」はありません。ごくごく個人的な空間と時間が移動しているだけです。
それはすなわち「言語」の解体をも意味します。始原的で最大最強の「共同幻想」たる「言語」に「共同」のプロセスがなくなるということは、そこには辞書的な意味しか残りません。つまり、生きた歴史も時代も国家もそこには立ち現れなくなるということです。
「言語にとって美とはなにか」…私が最もよく読み、最も理解できなかった吉本さんの本です。そして、今、その意味がようやく分かったような気がします。今日、吉本さんと、プロセスの何かどこか一部分を共有できたからかもしれません。
ご冥福をお祈りいたします。
Amazon 思想のアンソロジー
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