『GHQ作成の情報操作書「真相箱」の呪縛を解く―戦後日本人の歴史観はこうして歪められた』 櫻井よしこ (小学館文庫)
昨日の続きです。GHQによる洗脳政策(War Guilt Information Program)で、我々「愚民」にとって最も分かりやすい形で残っているのが、この「真相箱」でしょう。
このプロパガンダラジオ番組の全脚本を復刻したこの本、歴史的な資料としての価値も高いと思います。
なにしろ一般大衆用のラジオ番組ですから、当時の日本人庶民になりきって読むことができます。そういう追体験をした上で、この「洗脳」の価値(プラスとマイナス両面)を客観的に考えることが大切です。
そういう意味では、冒頭の「戦後日本は、この言論検閲からはじまった」や、各項目ごとの「解説」はあとで読むのがいいでしょう。純粋にラジオ番組を全部聴いた形をとってから、その前後の自己の心の変化を客観的に分析するところから始めるべきです。
そうしないと、「保守論客」櫻井よしこに洗脳されちゃいますから(笑)。
歴史、特に戦史に関しては、少なくとも戦勝国と戦敗国の二つの視点があり、その両者の意見が一致することはほとんどありません。そして、そのどちらかが本当でどちらかがウソあるいは間違いであるとも言い切れません。
あまりにどちらかにこだわると、それは原理主義になってしまい、再び戦争を招く火種となりかねません。そこのところは常に注意しなければなりませんね。特に私のような教育者は。
実はそういう視点を失っていたのが、戦後の教育界であったわけです。そういう意味での洗脳はとてもうまく行きました。日本人の思考の骨抜き化ですね。
原理主義というのは、実は最も何も考えていない状態のことなのです。それは「思いやり」のない状態とも言えます。他者意識がない状態です。そう、「思いやり」というのは感性や情緒の領域ではなく、実は論理的な思考のことを言うのです。「思い」を他者に「遣る」のですから。
そういう意味で、私は自虐史観よりもなによりも、見事に論理的に思考できなくなった点にこそ、戦後教育の大きな問題点を見ます。いや、自虐史観もウェットな気分にしか過ぎないか。
この本の中で、GHQと戦後教育について櫻井さんはこう書いています。
「GHQの行った行政のなかで、恐らく最も憎むべきは、この戦後の教育行政であろう」
「…あやまった教育の恐ろしさは、本当の結果は一世代あるいは二世代後になって出でくることだ。現在の日本をみると、GHQが当時目指した、日本を再び米国に立ち向かえないような国にするという目的は、当初の狙いよりも遥かに完璧に達成されたと思う」
彼女の言う「この戦後の教育行政」「あやまった教育」については言わずもがなでしょう。あるいはこの本を読めばよく分かるはずです。
私は櫻井さんの言うこと全てに賛意を表せない、すなわちそこまで原理主義になれない…それは「思いやり」があるのということなのか、それとも勇気がないということなのか…立場の人間ですが、たしかにアメリカの想定以上に愚民に成り下がってしまったことは認めます。
そうそう、私よく言ってますよねえ、学校という現場では、様々な軍国主義の名残と左翼的な教育活動が普通に同居してるって。これだけでもちゃんちゃらおかしいじゃないですか。日教組ってホントお馬鹿ですよ(笑)。軍隊ごっこさせといて戦争反対!とか言ってるようなもんですから。
しかし、私はそれを心から馬鹿にしているわけじゃないんですよ。自分もまた、そこにどっぷり浸かって気づかないで来たのですから。だから逆にそのシステムやメンタリティーや文化に興味があるんですよね。
その探求の方法として、自分の専門分野であり職能である「国語教育」の客観視をしている最中なのです。面白いですよ。自分が受けてきた教育、自分が施してきた教育がいかにめちゃくちゃか知るのは(笑)。
まあ、私はある意味幸福なことに、大村はま先生の授業を受け、また最近では出口汪先生とのご縁をいただきましたから、かなり一般とは違った、あるいは本来の「国語教育体験」をしてきましたから、そういう観点を持つことができたのでしょう。
この「真相箱」一つとっても、私たち日本人が「言葉」の力によって人生を決定づけられていることが分かります。昨日の「電通」においても、その中心メディアは「言葉」です。
古来の「言霊」信仰…私は一般的な「言霊」の定義には反対しているのですが…というのは、実はそういう危険性のことでもあったはずです。私たちが道具として使うべき言語に、結果として振り回され、コントロールされてしまう、そういう現実こそが、本来私たちが恐れた「言葉の霊力」だったのではないでしょうか。
戦後国語教育の犯した大罪は、私たちを言葉の下僕にしてしまったことなのかもしれませんね。
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