利益…「りやく」と「りえき」
「NHKのアナ、ご利益をゴリエキと読みやがったww」
思わずツイッターでつぶやいてしまった(苦笑してしまった)ローカルニュースでの誤読。ついでですから、ちょっと調べてみました。
そう、「利益」は「りやく」と「りえき」の二つの読みがあるわけですが、この「りやく」と「りえき」って、同じ漢字なのにずいぶんイメージが違いますよね。
「りやく」はもちろん神仏からの恵みのことであり、「りえき」は多くの場合、経済的な意味で「もうけ」のことです。
ちなみに「益」の唐音が「やく」、漢音が「えき」ということになります。
主に鎌倉時代の禅宗によって広まったものが「唐音」でして、漢字テストの難問は「唐音」の方が多いですね。「行脚」とか「杜撰」とか「提灯」とか。つまり、簡単に言ってしまうと、その当時の中国の方言が輸入されたということです。
では、歴史的にどういうふうに使い分けられてきたかと言いますと、これが案外難しいのです。
おそらくは仏教伝来と同時に「利益」という言葉は輸入されたと思いますが、その読みがどうであったかは定かではありません。時代的なことを考えると「漢音」の「りえき」だったのでは、と想像されます。
使われ方としては、今の「御利益」のように名詞ではなく、「利益す」という動詞として使われている例が多く見られます。「(仏が衆生に)恵みを与える」という意味ですね。
先ほど書いたように、禅宗がさかんになる鎌倉時代以降は、仏教用語としての「利益」は「りやく」と読まれるようになったと考えられます。それと同時に「りえき」の方は少し違った意味合いで使われるようになりました。
鎌倉期の名語記(みょうごき…唐音ですね)という辞書に「えきは益也。利益、巨益の益也。ますといふよみあり」とありますから、もうこの頃には「りえき」と読むと、仏教を離れて経済的な意味での「もうけ」を表していたともとらえられますね。
つまり、中世には「利益」は「りやく」と「りえき」の双方の読みが使われ、互いにその意味的守備範囲を手分けするようになっていたということです。
言葉は世の中を映す鏡です。つまり、この「利益」の変化は、そのまま日本社会の変化を象徴しているとも言えます。
明日から大河ドラマ「平清盛」が始まりますね。ご存知のように清盛は日宋貿易に積極的でした。実は清盛が日本の貨幣経済の基礎を築いた立役者だったんですよね。大河ドラマではそういう側面も紹介されるでしょうか。
日本に宋銭が大量に輸入され、鎌倉時代には地方の一般庶民までが「お金」を持つようになりました。ちなみにここ富士北麓地方でも旧街道沿いで宋銭が大量に発掘されます。こんなド田舎(流刑地でしたから…笑)にまで、貨幣経済の波が押し寄せていたんですね。
こうして日本国民は初めて、貨幣価値としての「富」を意識するようになります。商売をして「もうける」ことに目覚めるわけですね。
そうなりますと、その「もうけ」を表す言葉が必要になります。そこで使われるようになったのが「利益」でした。古くは「仏からの恵み」を表していたその言葉が、より現世的な「もうけ」の意味になっていったというのは、実に面白いことです。そして皮肉なことでもあります。
それまでは、たとえば農産物や狩猟採集物や漁撈の収量というのものが、「神仏からの恵み」ととらえられていました。しかし、「商業」「貿易」「貨幣経済」が発達すると、「富」=「恵み」は「人間」から得るものとなっていったわけです。
ここで、我々の「無意識的収奪」の歴史が始まるわけです。
神仏の「りやく」の総量は無限です(たぶん)。しかし、人間から得る「りえき」の裏側には必ず「損」が存在しますよね。
神仏からの「利益」をありがたく頂戴していた私たちは、いつのまにか経済的「利益」をただ獲得感と達成感をもって手に入れるようになり、その裏にある他者の「損」さえも想像できなくなっていったのです。
いつも書いているとおり、「マネーというモンスター」が旧来の(本当の?)神仏を幽閉してこの世を支配するようになってしまったわけですね。
この「利益」という言葉の歴史がそれを象徴していると考えると興味深いですよね。そして、NHKのアナウンサーまでが、「御利益」を「ゴリエキ」と読んでしまうまでになってしまった(苦笑)。まったく困ったものです。
ま、それよりずいぶん前から(江戸時代から)、我々はお賽銭を放り込んで「現世利益」を「購入」していたわけですし、それで神社やお寺は商売していたわけですが。皆さんもお正月には初詣でという「初売り」に群がっていましたよね(笑)。
こんなふうに、言葉の歴史を探ると、社会や人間の本質的な変化が読み取れて面白いですね。
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