クリスティーネ・ショルンスハイム 『J.S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集』
昨日追悼記事を書いたグスタフ・レオンハルトの薫陶を受けた鍵盤奏者の一人、ドイツのクリスティーネ・ショルンスハイムの平均率全曲集が発売になります。
発売を前にナクソス・ミュージック・ライブラリーで聴きました。ここのところ、あまり心に残る平均率の演奏がなかったのですが、久しぶりに静かな興奮を覚える録音に出会うことができました。
ショルンスハイムの演奏は、私はかなり昔から聴いてきました。昔CDマニアだった頃、ドイツのマイナー・レーベル「Capriccio」をけっこう集めていまして、若かりし頃の彼女のチェンバロ演奏やオルガン演奏に触れていたんです。
通奏低音も含めて、非常に正統的な演奏をするなと思っていましたから、もしかすると、この平均率もある意味ドイツらしい堅苦しい演奏になるかなと思っていたんですよね。
そうしたら、まあたしかに正統的ではありますが、しかし一方で大胆なアプローチもあり、非常にバランスの良い生き生きとした演奏になっていたので、ちょっと意外な感じさえしました。
これは私の勝手な想像ですが、彼女の演奏の基本的なところにはレオンハルトの影響があり、表面的な部分というかある種現代的な部分には、コープマンやシュタイアーの影響があるように思います。
また、最近盛んに演奏しているフォルテピアノによる古典派からのフィードバックもあるのかなあ。
新鮮に聞こえる要因の一つに楽譜の解釈という学問的な部分もあるように感じます。冒頭の有名なハ長調プレリュードやフーガを最後まで聴くと、もう私の言うところが分かると思います。
そして、一番驚いたのは、これです。これまた有名な第一巻掉尾のロ短調プレリュード。ある意味伝説となっている(?)私のマトリョミン(テルミン)などによる演奏よりも過激かもしれない。この名曲にこれほどまでに装飾、変形、誇張を加えた演奏は初めて聴きました。「女の覚悟と勇気」に拍手。
せっかくですから、特別に(ナイショで)お聞かせします。こちらをクリックしてください。かっこいいですよ。
ところで、この録音に使われている楽器は、コルマールにあるウンターリンデン美術館所蔵のリュッカース・チェンバロです。1624年に製作されたオリジナル。彼女はこの楽器に関してこう語っています。
「私が知っている最も美しい楽器であり、魅惑的な音色を持っています。そして控え目な外見で現実的。暖かくよく歌う楽器です。バッハの対位法音楽にとって不可欠な全ての要素を持ち合わせています」
録音で聴いてもこの楽器の素晴らしさは充分分かります。レコーディング技術も高いのでしょうね。
そうそう、YouTubeにこの楽器と平均率に関する彼女のインタビューがありましたのでどうぞ。演奏も少し聴けますし観られます。この演奏がいかに楽器からインスパイアされて成立したか想像できますよ。
ショルンスハイムさん、最近東京藝術大学の特任教授か何かになったと聞きました。一昨年、昨年には日本でも平均率全曲演奏会を催していましたね。今後日本でも彼女のファンは増えていきそうです。
Amazon BACH, J.S.: Well-Tempered Clavier , Books 1 and 2 (Schornsheim)
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