甲斐権守 大江匡衡
↓奥さんの赤染衛門
昨日の話の続きかな。ある意味どうでもいいマニアックな話です。
「末の松山」を詠んだ清原元輔さんの娘はかの清少納言。彼女の枕草子から、地味〜な一節を紹介します。
「権の守は」という段です。枕草子によくある、ある意味どうでもいい(と思われがちな)「…は」シリーズの一つ。まずは本文を縦書きでどうぞ。
たったこれだけです。
私がこの段に注目したのは、まあ単に「甲斐」が出て来るからですね。甲斐はもちろん今の山梨県です。
ちなみに越後は新潟、筑後は福岡県、阿波は徳島県ですね。
で、「権の守(ごんのかみ)」というのは何かと言いますと、仮の国守(県知事)ですね。これって実際には赴任しないんですよ。名前だけ。
「権」とは、たとえば「権現」が「仏の代わりに仮に神の姿で現れる」という意味であることから分かるとおり、「代理」「仮」「暫定」といった意味です。
ここに並んでいる四国は、それぞれいわゆる上国でして、まあ当時としては重要な国だったんですね。今とはちょっと違う感覚です。経済的な面、文化的な面、そして防衛上の観点などから、当時は国のランク付けがされていました。
一般的に、この段は、単純に「権守」になるんだったら、雰囲気的にこの四国がカッコイイ…という意味だととらえられています。もちろん、それはそれで当時の女官たちの感覚(ブランド志向)が分かって面白いんですけどね。
でも、なんとなくワタクシとしてはもう少しうがった見方をしてみたいなと。
で、ちょこっと調べてみました。清少納言さんがこの段を書いた頃、実際に「甲斐権守」だったのは誰かなと。もしかすると、「県知事だったらさあ、やっぱり前大阪府知事とか、現東京都知事とか、カッコよくない?」みたいな、そういういかにも清少納言的な「をかし=萌え」記事かもしれないじゃないですか(笑)。
ということで、当時の甲斐権守はですね、なんと!この人でした。ある意味有名人だったので私もビックリ。
大江匡衡(おおえのまさひら)
永観2年(984年)に甲斐権守に任じられています。その後いつまでその職にあったかよく分かりませんが、清少納言の中では、あるいは当時の女官たちの中では、甲斐権守と言えば大江匡衡、大江匡衡と言えば甲斐権守というのが、けっこう一般的になっていたんじゃないでしょうか。ブランドとして。
大江匡衡と言えば、平安時代を代表する文章博士です。彼の日本漢文学史に残した業績は偉大ですよ。「本朝文粋」に最も多く収載されているのは彼の漢詩です。
ちなみに匡衡の奥さんは、三十六歌仙の一人赤染衛門です。二人は宮中でも有名なおしどり夫婦だったようですね。匡衡が甲斐権守に任じられた時には、すでに二人は結婚していたと思われます。
清少納言と紫式部のライバル関係…というか仲の悪さは有名ですけれども、清少納言と赤染衛門は仲が良かったのではとも言われています。権勢を誇るに至った中宮彰子とは別の中宮にそれぞれ仕えていたこともあるのでしょうね。女性の、特に才女どうしの関係は今も昔も難しい…。
で、清少納言としては、友だちのダンナさんを持ち上げる意味もあって、こうした段を書いたのではないかとワタクシは想像したわけですよ。
たぶん、匡衡はイケメンだったんだと思います(笑)。頭も良くて、性格も良くて、イケメン。それが友だちのダンナさんということで、まあちょっとジェラシーもあるけれども、それでも「あなたのダンナさんってステキね!」っていう感じだったんじゃないでしょうかね。
匡衡はあんまりいい男だったので、ライバルの男にはずいぶんと嫉妬されたようでして、寛和元年(985年)には、かの悪党藤原保輔に襲われて、左手の指を切り落とされています。
女に限らず、男どうしも難しいもんですなあ(笑)。
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