絆とは…
今日は小津安二郎監督の誕生日にして命日でした。昨日追悼した市川森一さんと同様、小津さんも人と人の「絆」を表現し続けてた人でしたね。親と子の絆、社会の絆…それらの美しさだけでなく、それらが断絶していく様子を淡々と描写して、私たちの胸に迫る作品を多数残しました。
今年の漢字は「絆」だとのこと。2位以下の「災」や「震」を大きく引き離しての第1位。たしかに今年ほど「絆」の大切さを痛感した年はありませんでした。
では、「絆」とは何かというと、これは実は簡単ではありません。人と人の結びつき、縁、思いやりというような、なんとなくイメージ的に近い言葉で説明するのが精一杯ではないでしょうか。
実は、古くはこの「きづな」という言葉に当てられていた漢字は「紲(絏・緤)」でした。「絆」は「ほだし」と読まれることの方が多かったようです。
「ほだし」は「ほだす」の連用形から生まれた名詞ですね。今でも「情にほだされる」などと使われます。「ほだされる」と受身(迷惑)の形で使われることからも分かるとおり、古い日本語ではどちらかというと悪いイメージでの「結びつき」という意味でした。何かに縛られて自由がきかない状態ですね。
もともと「きづな」も「ほだし」も、動物が逃げないように綱などで結びつけておくことを指す言葉です。
そうしますと、「きづな」の「つな」は「綱」や「つなぐ」と同源であることは想像できますが、「き」が何かというと、これはよく分かりません。
和名抄(10世紀)には「き」の部分には「止」偏に「支」という漢字が当てられています。「伎」「岐」「妓」が上代特殊仮名遣いにおいて甲類に分類されていることから、おそらくこの漢字も甲類の「き」であると想像されます(とは言っても、私は上代特殊仮名遣いの存在自体に懐疑的ですし、たとえそれがあったとしても和名抄に正確に反映しているかは疑問であります)。
いちおう甲類の「き」だとすると、「木」ではありませんね。綱で木につないでおく…なんていう単純な発想はやはり却下されるようです。
とすると考えられるのは、「生き」や「息」の「き」でしょうか。語頭の母音が脱落することはよくあります。そう、「生一本」とか「生娘」という時の「き」もその例ですね。
つまり、もともとは「いきつな」だったと。そして、昔の「いき」には「命」という意味もありましたから、つまり、「きづな」とは「命綱」の意味だということです。
そうすると、つながれた綱は私たちを束縛するものではなく、本来は守ってくれる存在だったのかとも思います。まさに紐帯。あるいはへその緒です。
最近ある別の中学の話を聞くことが多いのですが、そこでは本来教育の根幹たるべきその「絆」が失われているように感じます。怒ってほしいのに怒ってくれない先生、ほめてほしいのにほめてくれない先生…。
私たちはある意味何かに縛られて守られて初めて思いっきり成長できるのです。本当の自由とは全てから解放された「フリー」な状態ではありません。何かに守られている、誰かが手綱をしっかり握ってくれている状態こそが、真の自由なのです。
ウチの学校では、そんな当たり前な「絆」を大切にしていきたいと考えています。震災があったから思い出す…では実は哀しいことですね。本当は「絆」が今年の漢字に選ばれているようではいけないのかもしれません。
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