本物の音楽は「命」そのもの
(19日に書いています)
今考えてもなんともぜいたく過ぎる時間でしたねえ。
中学校は明日初めての文化祭ということで、とんでもなくてんやわんやしておりましたが、その合間をぬって芸術鑑賞。昨年に続いてこの季節はバロック・アンサンブルです。
バロック・ヴァイオリン…赤津眞言
リコーダー…ピーター・ファン・ヘイゲン
ヴィオラ・ダ・ガンバ&バロック・チェロ…武澤秀平
チェンバロ…岡田龍之介
日本人のお三人だけでも充分にすごいメンバーなのですが、ヨーロッパを代表するリコーダー奏者であり研究家、教育者でもあるヘイゲンさんが、こんな田舎に来てくれるなんて…。本当に音楽のご縁というのは面白く素晴らしいものです。
日本ではリコーダー(たて笛)と言えば教育楽器。ある意味全国民が一度は演奏したことがある楽器であります。逆に言うとですね、そんな国は日本くらいしかないのです。
本番ヨーロッパでもこんなことはないそうです。リコーダーと言えばやはり古楽器。日本で言えば尺八みたいなものですからね。日本人が尺八を吹けない、吹いたことがないのと同じなのかな。
ちなみに日本でなぜに学校文化としてのリコーダーがこれほど一般化したかと言いますと、これはちょっと暗い歴史の話になります。
ほら、よく私書いてるじゃないですか、教育現場に残る軍国主義の話。高校野球やブラバン、体育座りから運動会、ランドセルまで…。そういう負の文化の一つとしてリコーダー教育があるのです。
ナチスはリコーダーを教育に取り入れ、ヒトラーユーゲントの少年少女たちの鼓笛隊にも使われました。ナチスの宣伝に利用されたのですね。1936年のベルリン・オリンピックでも使われ、そこを訪れた視察団によって日本にも導入されたと言われています。
ですから、日本の学校ではいまだに「ドイツ式(ジャーマン式)」という妙ちくりんな指使いが教えられています。
ま、それはいいとして、というか、そういう文化としてのリコーダーしか知らない生徒たちにとって、ヘイゲンさんの奏でるリコーダーの音と音楽は驚きだったようです。これほど豊かな表現ができるとは…。
夜は本校の母体となっているお寺の本堂にて無料コンサートが行われました。このコンサートも今回で29回目。実は第1回もバロック音楽でした。その時は私がヴァイオリンを担当しましたが、20年近い歳月を経て、赤津さんのヴァイオリンにグレードアップ!
今回はオール・テレマン・プログラム。トリオソナタからソロソナタまで、本当に多様な編成と内容でしたね。テレマンの偉大さ、テレマンの親しみやすさ、テレマンの「新しさ」をたっぷり楽しむことができました。
それにしても、アンサンブルのすごさには、もう涙が止まりませんでしたよ〜。まさに至上のアンサンブル。一人一人の楽器の技量だけではない、合奏力というのは、これは本当の音楽家かそうでないかの分かれ目ですよ。
今回の四人は間違いなく本物の音楽家でした。生徒もお客様も私も、その楽曲、音色、技術とともに、アンサンブルの素晴らしさに感動したのだと思います。まさに言葉以前の「息」の世界。「息を合わせる」ということの意味がよく分かりました。
「息」とは「生く(生きる)」の名詞形です。つまり、「息が合う」ということは「命が共鳴する」ということなのです。
それから、今回は演奏者の皆さんとのお話の中にもいろいろ考えさせられることがありました。
開演前、赤津さんと武澤くんと話したんですが、音楽家、芸術家、いや教員もですね、私たちは常に「新しい発見」をしていかねば、人に何かを伝えたり、人を感動させたりすることはできないと。
テレマンはまさにそういう作曲家だったのですね。だから3000曲も作ってしまった。時代が求める音、あるいは時代の先を行く音を追求しないではいられない人だった。そういう部分がこうして時代や国を越えて生き続けているのに違いありません。
赤津さんもまたそういう音楽家です。常に新しいテーマを見つけ、新しい曲を発掘し、実際に音にしていく。そういうご自身の探求心、好奇心、そして驚きや感動が、聴き手に伝わるんですよね。武澤くんもそれを目指したいとのことでした。
音楽家でも、まるで(腐った)公務員のような活動しかできない人もいるそうです。教員でもそうですね(苦笑)。毎回同じことの繰り返し…いったい何が楽しくて仕事してるんだ。
また終演後、岡田さんのおっしゃったことも心に残りましたね。こういう地方のコンサートの良さの話です。音楽に限らず、全ての文化には「場」や「風土」が不可欠であると。情報としての音楽の価値も認めるが、やはり本物はその瞬間、その場、その空気やそこに染み込んだ歴史によって生まれるものだと。
これもよく分かりますね。cultureがcultivateから発しているということですね。その土地を耕すことこそが文化なのです。そういう意味で、彼らにとっても、あの富士山を仰ぎ見て、この冷たい空気に包まれて、そして何より阿弥陀如来の前で、天蓋の下で演奏することの「一期一会」こそが、音楽であり芸術であり文化であるということでしょう。
本当に素晴らしい体験でした。演奏者の皆さんありがとうございました。そして、このコンサートを実現してくださった理事長先生(月江寺住職)に感謝です。
本物の音楽は命そのものでした。
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