『暴力団』 溝口敦 (新潮新書)
今日、某刑務所で「放免迎え(出所迎え)」というのに参加しました。もちろん初めての体験です。そして、もちろん「フィクション」です。
何のことかは、来年の夏になれば分かるでしょう。ある意味夢が叶ったとも言える貴重な体験でありました。皆さんもきっと驚く(いや、大笑いする)でしょう。けっこう大物とにらみ合ってますから(笑)。
ちょうど今週の朝まで生テレビは「激論!暴力団排除条例と社会の安全 "暴排条例"とは何か?! 」だったようですね。ウチはテレ朝が映らないのでネットでその様子を読ませていただきました。だいたい想定したとおりの討論になったようです。
このブログには、文化論の、あるいは宗教論の対象としての「ヤクザ」がたくさん登場してきましたよね。ワタクシ流に言えば「モノ(もののけ・もののふ)」としての「ヤクザ」肯定論、必要論でした。
たとえば、同じ溝口敦さんの著書『新版・現代ヤクザのウラ知識』に関するこちらの記事には、私の「ヤクザ論」が端的に表れていると思います(ぜひお読みください)。
そして、戦後のヤクザ、暴力団、特に山口組を丁寧に検証してきた溝口さんの最新著書であるこの本。ある意味非常にショッキングな内容でした。
今までの研究の集大成であるというだけあって、非常に分かりやすく、幅広い内容です。しかし、一方では新書という縛りや、初心者にも読んでもらいたいという意図もあって、それほど深みはありません。
ですから前半なんか、私たちのように興味を持っている者にとっては、あまりに常識的なことが多くて多少眠くなるところ、飛ばしたくなるところがありました。
まあ、それはしかたないでしょう。溝口さん自身も書いているとおり、それほどに我々庶民というか、日本社会での「暴力団」や「ヤクザ」や「任侠道」や「仁義」というものの存在価値、存在感が薄まってしまっているのですから。
この本はタイミング的に、あの「島田紳助引退劇」で「?」と思った方対象の企画だと思います。そう、「ああ、そう言えば暴力団ってあったっけな。どういうヤツらだっけ」と思った方が手にするケースがほとんどではないでしょうか。
まさにそうした暴力団、ヤクザ文化の衰退こそが、この本のテーマであり、そういう意味での「不必要論」が痛々しく展開されているわけです。
この本の後半、そのリアルな「痛々しさ」…すなわち、彼らの居場所がどんどんなくなっていく、あるいは日本に千年以上にわたって息づいていた文化が消滅していく現実の、ある意味「迫力」に私は気圧されました。
海外のマフィアや国内の半グレ集団にその場を奪われ、あるいは馬鹿にされ、これまで持ちつ持たれつだった最大の仲間警察にも目の敵にされる。ワルはワルでも、どこか愛嬌があったり、あるいは任侠映画のように憧れの対象であったはずの彼らが、とうとう「人間として失格」「割が悪い」「かっこわるい」というだけの存在になってしまう哀しさ。
おそらく人一倍そうした世界に「愛情」をも持っていらした溝口さんでしょうが、この本では、ある意味非情に徹しています。暴力団やヤクザは今の日本にはもう必要ないから退場願うといった論調で一貫しています。そこには私の期待したセンチメンタリズムのかけらもありませんでした。
それでも、最後のセンチメンタリズムを捨てきれない私は、きっと溝口さんもこんな本を書かねばならないことに、言いようのない哀しさと辛さと怒りを持っていると信じたいのです。そして、今日そんな気持ちをもってヤクザになりきったつもりです(馬鹿と思っていただいてけっこうです…苦笑)。
先日、あるNPOの代表の方の話を聴きました。震災ボランティアをなさっている方です。私は彼の言葉の端々にある種の「仁侠」を感じました。それは現代においては胡散臭さとも言えるのかもしれません。しかし、私はどこかノスタルジーを感じたのも事実です。
今、たしかに震災特需という面もあるようです。人の命に関わる重大事、あるいは普段は幽閉秘匿されている現実、または白黒といったデジタル思考で割り切れないことに対処するのが、彼らの仕事だったと思います。今からそれらを誰が担当するのでしょうか。それも「カネ」の世界、あるいは「グローバル」な世界に取り込まれていくのでしょう。
神(宗教)も死んで久しい。ヤクザもそのうちに絶滅するでしょう。私たち凡夫の「悪い心」を抑えてくれる存在がどんどん消えていきます。あるいは「良い心」を芽生えさせてくれるきっかけも消えてゆきます。
私はそうした現実の流れに、一抹の寂しさとともに、決して小さくはない恐怖を感じています。
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