『無知との遭遇』 落合信彦 (小学館101新書)
国際ジャーナリスト落合信彦さんの本。
まあ可もなく不可もなくといった感じでした。落合さんの立場からすればたしかにこういう内容、すなわち日本人に国際感覚がない、日本人は英語がへた、日本人は日本を知らない…等々になるでしょうね。
しかし、私たち庶民のほとんどは国際的に活躍する人間ではありませんから、これらの「無知」は「無知」のままでも基本問題ありません。
英語に関する記事で何度も書いてきたとおり、こうした「無知」に関して憂慮されるべきは政治家や国際企業のエリートたちです。それはおそらく日本国民の1%にも満たないでしょう。
私たち庶民がそのような「無知」を知れと責められ、また「無恥」を恥じろと責められると、単なるコンプレックスの塊になってしまいます。戦後おそらく我々はずっとそう言われ続けて萎縮してきたのではないでしょうか。
そう考えると、アメリカ(GHQ)はなかなか巧妙な戦略をとったのだと気づきますね。表面的には日本を植民地化、あるいは属国化しなかったわけですし、あの天皇制までを残したわけですけど、実際には非常に長い時間をかけて我々を無力化することに成功しました。結果として日本はアメリカの一つの州のような存在になってしまいました。
それを全て悪いことだとは思いませんが、とにかく感心さえするほどに巧妙な戦略だったというのは事実でしょう。つまり、教育と文化で日本人の本来の力を封印してしまった。特に言語力、日本語についても英語についても、その学習の機会を巧妙に奪ったのは事実です。
もちろんどこまでがアメリカの戦略(陰謀)かは分かりません。そんなことまで考えていなかったかもしれません。しかし、結果として日本人は見事にこうなりました。
英語が苦手で、日本語での論理的思考や表現も苦手。はっきり物が言えず、あいまいでノーと言えない。それが日本人だし日本語だということをいつのまにか教えこまれ、本気でそうだと思い込んでいますよね。実はそうした根拠のない思い込みこそが「洗脳」の結果だと思う今日この頃です。
仮にそうした一般論が正しいとして、そんなにいい加減な思考や表現しかできない日本人ばかりの日本が、どうしてこれほどの文明国になり、工業国になりえたのでしょう。落合さんが異様にプッシュする(笑)「ウォシュレット」のような繊細な技術は「論理的」な思考と、その基礎となる「明晰」な言語がなければ絶対に成立しません。
というわけで、最近の私にとっての「日本人の無知」とは、そうした戦後教育のあり方や、本当の日本人、日本文化、日本語に対する「無知」であります。そこに気づかねば我々はいつまでたってもアメリカから独立できない「子ども」のような国のままでしょう。
このような考え方をしている私からしますと、この本は今までの「無知」から脱していないと言えます。たまたまそういう洗脳に乗らなかった個人の、ちょっとした自慢話のようにも感じてしまいました。
全編に英語のジョーク(日本語で書かれていますが)がちりばめられています。たしかに面白いけれども、どうでしょうね、本当にそれがないと国際舞台で活躍できないのでしょうか。もっと大事なことがあるような気もしますが。
ちなみに「無知との遭遇」と言えば、こちらの方が面白いかも。これこそ日本人らしい、しかし国際的にも通用するユーモアかもしれませんよ(笑)。
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コメント
落合信彦さん。昔からこの人は「国民は愚かだ」と不安を煽ってはお金を稼ぐ人です。
ちなみに英語が話せないってそんなにマイナスでしょうか? 某予備校の CM で、名物教師らしき人が「英語が話せれば、世界中のどこでも仕事が出来るじゃないですか!」なんて言ってますけど、そんな馬鹿なことありますかね。
「まず、仕事が出来なきゃ誰からも相手にされない。」のではないでしょうかね? そもそもコミュニケーション能力は語学力とは無関係だと思いますし。
投稿: LUKE | 2011.11.27 00:20