追悼 北杜夫さん(山梨県北杜市との関係は?)
北杜夫さんが亡くなられました。最近はあまり作品にも接する機会がなかったけれども、若い頃は「どくとるマンボウ」を楽しんでいました。独特のユーモアと鋭い社会批判の目は、今後も高く評価され続けるでしょう。ある意味ではお父様の斎藤茂吉さんを越えたお仕事をされたかもしれません。
さて、今日は、北杜夫さんに関するちょっとしたローカルなネタを紹介します。
私たち山梨県民は、「北杜夫」という文字の並びを見ますと、北杜市を思い出さずにはいられません。「北」という漢字と「杜」という字が並ぶのは、おそらく「北杜夫」さんと「北杜市」しかないのではないでしょうか。
えっもしかして、北杜夫さんって北杜市のご出身?なんて思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。いやいや、もちろんそんなことはありませんよ。しかし、不思議な縁があることもたしかなんです。
ちなみに「北杜市」は、2004年に平成の大合併で北巨摩郡に属していた長坂町・高根町・大泉村・白州町・武川村・須玉町・明野村の7町村が合併して生まれた市です。
「北杜」という地名が古来あったわけではなく、全く新しく生まれた日本語です。その由来はいろいろと複雜です。
合併に際してそれぞれの町村が自らの特徴(特に名山…たとえば八ケ岳)を新市名に盛り込むことを画策し、なかなか調整がつきませんでした。そこで、「やまなし」という植物を表す「杜」という字を使い、「北山梨」という意味にして「北杜」と名づけたとのことです。
正直無理がありますね(笑)。我々山梨県民、地元の人たちも、「えっ?なんて読むの?」と思いました。私なんかも「北杜夫」が真っ先に頭に浮かびましたから、「きたもり」市かと思いましたよ。
「ほくと」という響き自体は「北斗」や「北都」がありましたから、なんとなくなじみ深いし、カッコよく感じられさえします。しかし、「杜」が「やまなし」だなんて知っている人はそんなにいませんから、意味はよく分からなかったのは事実でしょうね。
さて、そんな新しい造語である「北杜市」と「北杜夫」が関係あるわけないですよねえ。しかし、そこが運命の面白いところでして、実は三つの意味で関係があると言えばあるのです。北杜夫さんご自身もそこは「不思議だ」とおっしゃっていました。
まず最初の縁は30年ほど前に現北杜市の付近を散策したことに始まります。北杜夫さんの昆虫好きはとても有名ですね。ほとんど本業ではないかというくらい昆虫採集がお好きでした。虫マニア。で、知り合いの虫仲間に誘われて天然記念物オオムラサキを見に当地にいらしたようです。
それが縁で、昨年の春には、北杜市にあるオオムラサキセンターを長女のエッセイスト斎藤由香さんとともに訪れています。
その長女斎藤由香さんはサントリーの社員ですよね。そう、サントリーと言えば、北杜市に有名なサントリー白州蒸留所があります。そんな縁もあってか、北杜夫さんのご自宅にはサントリーのウイスキー「北杜」が常備されていたとか。
それから、これは北杜市のお隣、韮崎市の話になりますけれども、実は北杜夫さん、お若い時に山梨県立精神病院で臨床医として働いていらっしゃるんですよね。ホントに隣町ですから、これも偶然としてはできすぎのように感じます。
のちに躁鬱を患いながらも、それを作品にまで昇華することができたのは、精神科医としての知識と実体験があったからではないでしょうか。そう考えると、この地がはたした役割も新しく見えてくるというものです。
あっそうそう、「北杜夫」というペンネームの由来は…杜の都仙台と敬愛するトーマス・マンの『トニオ・クレーゲル』のトニオ(杜二夫)にちなんだのだそうです。
また昭和の偉人が一人この世を去りましたね。近く北杜市を訪ねる予定もありますので、オオムラサキセンターあたりで彼の作品を久々に読んでみようかと思います。
ご冥福をお祈りします。
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コメント
先生、こんにちは。
北杜夫さん、お亡くなりになられたのですね。
私は若い頃、『さびしい王様』シリーズが大好きでした。
なのに、あの有名な『どくとるマンボウ』シリーズは読んだことがないのです。
私もこれからいろんな作品を読んでみようと思います。
ご冥福をお祈り申し上げます。
投稿: 松原恵子 | 2011.10.26 16:31