爆問学問 「君もアンパンマンになれる!」 (NHK)
正義の味方なら、まずひもじい人に何か食べさせるべきだ!そう語る元気なじいさん。アンパンマンの原作者やなせたかしさんです。
いやあ、まあだいたいこういう方だとは想像していましたが、ある意味ここまでだとは。昭和の天才はみんなこうしてぶっ飛んでいる。異様なほどのバイタリティー。
それはもしかすると、まさに「ひもじさ」を体験しているからかもしれませんね。すなわち戦争体験です。
戦後育ち、それも高度経済成長からバブルにかけて青少年時代を過ごしたワタクシなんかには、とても真似ができません。だから私は彼らに大いなるジェラシーを感じつつ、一方で憧れと尊敬の念を持ち続けているわけです。
これは逆説的な現実ですね。人は永遠の平安を祈りつつ、一方で不遇がないと自らの人生を豊かにすることができないわけですから。
ここをどう乗り越えるかが、あるいは人類永遠のテーマであり、政治や経済や宗教にとっての頭の痛い課題なのかもしれません。
やなせさんの正義観はやはり戦争という究極の不遇や不条理の中から生まれたものでした。敵や悪者をやっつけるだけではない。敵や悪者と認識する前提は立場によってコロコロ変わり得る。すなわち戦争における正義はフィクションであり、リアルな正義は、いままさに目の前で飢えている人にパンを与えることである…これはよくわかりますね。
それで自分の顔の一部をちぎって与える。やなせさんの言う自己犠牲ですね。
「飢えたる者に汝のパンを裂き与えよ」…これは言葉の上ではキリスト教的です。私なんかアンパンマンと言えばバッハのカンタータ第39番を思い出します(笑)。
しかし、微妙にキリスト教とは異なるとも感じました。イエスの正義とは明らかに違う。
それは「ばいきんまん」(バイキンマンは誤表記)の存在価値によって判断されます。キリスト教的に言えば、ばいきんまんは敵ということになりますから、イエスからすると「赦す」存在になるはずじゃないですか。
しかし、アンパンマンは決してばいきんまんを赦さない。常に戦っています。そしてその戦いは懲りずに永遠に続く。
そこなんですよね。アンパンマンが、というか日本のヒーローものが決して偽善に陥らないのは。
やなせさん自身が「世界的傑作」と語る「ばいきんまん」。彼の存在こそが「自分の中にある愛すべき悪」の象徴だと思うんですよね。
自らの罪に目覚めてそれを贖い心身清めるのではなく、自らの悪をも愛することによって、他の悪をも認めることができる。
これはやはり日本古来の神道的世界観とも言えそうです。あんぱんという基本設定もまた、西洋と東洋の融合、融和を表現している、あるいは和魂洋才を表現しているわけで、非常に日本的です。
ま、それにしても、ほとんど全ての病気をやったというのに、この元気さには驚きました。つまり、病気と戦いながらもその病気さえも愛するという、それこそアンパンマンとばいきんまん的「愛」の世界に生きているのでしょう。
実にうらやましく、そして真似をしたいと、心から思いました。
ps 来週は「キリストの墓」登場ですな!w
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コメント
庵主さまこんにちは。
この回は絶対観ようと思っていたのですが、
見逃してしまっていました。
僕は小さい時からアンパンマンとやなせたかしさんが
大好きで、今でもアンパンマンの劇場版第一作が大好きです。
(この作品は成人になった今観ても、映画としてかなり面白いと思います)
再放送を見逃さずに観たいと思います。
投稿: 恋する惑星 | 2011.09.02 18:12
こんにちは!!
震災の時、アンパンマンにとても救われました。
夫の実家が仙台の若林区、祖母の家も南相馬で地震だけでなく津波に原発……
しかも管さんは私の高校のOB(大田区にお住まいだった先生ならご存知かと……品川区の小山台高校という高校です。)ということもあり、
かなり複雑な気持ちでした。
仙台の友達夫婦の子供がTVは震災の映像ばかりでかなり怖がってしまっていたそうですが、
アンパンマンのソング集のDVDを送ったら
一日に何十回も見てくれていたんです。しかも毎日。
G.W.に会いに行ったら何回もDVD見ながら歌い、踊っていて
子供の純粋さと可愛さに大泣きしてしまいました(涙)
投稿: digger | 2011.09.02 18:45