『お釈迦さまの脳科学』 苫米地英人 (小学館101新書)
釈迦の教えを先端脳科学者はどう解くか?
9.11から10年、3.11から半年。いろいろ考えさせられる一日でありました。
我々は常に平和や安全や豊かさを望んでいますが、しかし、実際にそれが続くとストコーマ(盲点…見えているはずなのに脳が認識しないこと)がどんどん増えてゆき、本来の人間的な心まで失ってしまいます。
逆に戦争やテロや自然災害があると、それが直接的な体験であれ間接的な体験であれ、私たちは何か大切なものを思い出します。あるいは今まで見えなかったものが見えてきます。
こういう人間の性質について、もっと私たちはよく考えなければなりません。
お釈迦様の時代は今ほど平和でなく、安全でもなく、豊かでもなかったはずなのに、やはり同様の悩み(煩悩)があったのでしょう。あるいは単に相対的なレベルの問題ではなく、その状態が「常態」になってしまうことこそがその原因かもしれません。
いずれにせよ、古今東西老若男女に共通する人間の「初期不良」をなんとか修復する(ある意味ごまかす?)唯一の方法が、お釈迦様の悟りなのでしょう。
私もエセ坊主として、お釈迦様の語った、あるいはその後の賢人たちが語った「悟り」や「空」や「縁起」などについて、それなりに考えたり、体感したりしてきました。
それこそなんとなく、つまり言葉では表せないのですが、「これだ!」という感覚はようやくつかみかけております。しかし、それが正しいかどうかは、なかなか証明できません。それが不安でもあり、ある意味では安心でもありますが。
さあ、それを現代の賢人、苫米地英人さんはどう説明するか。非常に興味がありました。彼はたしかに非常に頭がいい。そして天台宗の僧籍も持っていらっしゃる。さらに「科学」と「オカルト」という両極端な言語世界(ワタクシ流に言うと「コト」)を奔放に行き来している。
そういう意味では、彼は私にとっては憧れであり、しかしなんとも胡散臭くもあり(笑)、実に不思議な生物です(人間かどうか不明)。
で、結論から申しますと、なるほどこの本では語られているコトはだいたい理解できましたし、ある程度知っているコトでもありました。
新書だからということもありましょうし、それこそ読み手を選ぶ「待機説法」なのでしょうね、全てが断定的であるために逆にウソ臭く感じられました。そういう意味では、共感している自分に自信がなくなってしまった(苦笑)。
つまり「方便」なのです。本書のタイトルからして「方便」ですよね。結果として全然「お釈迦様の脳科学」ではないので。しかし、損をした感じはしませんから、まあとっても苫米地さんはお釈迦様的だとも言えますね。
それにしても、こうして頭が良くて、しっかり思考して言語化、文章化していくと、そこにどんどん「ストコーマ」が生まれていきますよね。言語の性質とはそういうものなのでしょう。意味付けし、分節し、グループ化していくと、逆に無限の「補集合」が生じてくる。
それが私の言う「モノ」なのです。ですから、「コトを窮めてモノに至る」なんですよ。おそらくお釈迦様もそうして、コト世界を入り口にして、モノに至り嘆息した。すなわち「もののあはれ」を実感したのだと思います。
この世が全て脳内で生成された「幻(コト)」だと知ることによって、最終的には普段ストコーマとなっている「モノ」を実感できるのです。私はそれが「悟り」だと思っています。
「無」の対義語は「有」です。「空」はそれよりも上位の抽象概念であり、「無」も「有」もないというのが「空」でありましょう。つまり、人間の概念(その一番基礎的なものが二項対立的命名)の向こう側にあるのが「空」であり、それこそが私の言う「モノ」世界なのです。
苫米地さんと言えば、以前『なぜ、脳は神を創ったのか?』を紹介しました。そこにも同じようなことを書いた記憶があります。こうして語る人の言葉を受けて語ると、実はどんどん「空観」に近づいていくわけです。
まあ、それが臨済禅なら「公案」というシステムなのでしょうね。そして、私にとってはこのブログがそのシステムです。だからこれは修行です。そろそろやめろとの声がいろいろな所から聞こえてきますが、やめたら私の生きている価値がなくなってしまうのでやめられません。それほど私は「生」に執着がある凡人だということでもありますがね(苦笑)。
いずれにせよ、お釈迦様の悟り、すなわち「コトを窮めてモノに至る=自他不二」の境地こそ、平和や安全や豊かさと同時に得なければならないものなのではないでしょうか。コト(自己)への執着は争いを生みます。それが戦争であったり、テロであったり、豊かさの裏側の貧困であったりするわけですから。
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