『世界が私を待っている・前衛芸術家 草間彌生の疾走』 (NHK BSプレミアム)
「闘魂」…草間彌生さんはまさに戦う女でした。うん、たしかにレスラーの目だ。
水玉模様で有名な前衛芸術家草間彌生さんの番組を観ました。3時間に亘る長編でしたが、あっという間に感じられるほど引き込まれました。
ふむふむ、私の知っていた草間彌生はほんの一部にすぎなかったのだな。自分のことを「天才」「神」と言い、子どものように自由に描いている彼女を「幸せな人だな」と思っていましたが、実際は命懸けで「今」と戦っている、死と隣り合わせでギリギリのところを行っている人なのだと、今日初めて知りました。勉強不足を恥じます。
時代がようやく彼女に追いついてきたのでしょうかね。「前衛」というのは常にそうです。しかし、実際のところ「前衛」を名乗っていても、結局時代が追いつかない、というか、時代がそちらに向かってこない場合もあります。いやほとんどがそうなんです。つまり、結果として「前衛」でなかった場合がほとんどなんですよね。
今、存命にして「前衛芸術家」を自ら名乗り、そしてそれを誰もが認めているのは、もしかして世界中でも草間彌生さんだけかもしれません。
それにしても、ちょっと意外だったのは、草間さんがある意味非常に「他力」であるということです。
もしかすると、「自力」だった頃は苦労なさったのかもしれませんね。芸術家は基本「自力」を旨として活動を始めます。しかし、そこで何か大きな壁にぶつかるものです。
もちろん、それは芸術家に限ったことではありませんね。私のように普通の仕事をしている場合も全く同じです。ただ、芸術家は個人で戦ってかねばなりませんから、その壁にぶつかった時点で精神的に、あるいは経済的に断念を余儀なくされることが多いわけです。
しかし、それをある種の「智恵」で乗り切り、「他力」の感覚をつかむことで本当の成功をつかみとることができる人がいます。それが「天才」と言われる人であったりしますね。
現在の草間さんにはたくさんのサポーターがいると感じました。スタッフに「これどう?」とか「こうしたらどうかしら?」と何度も聞いていましたし、自らの作品が世界中に広がるために、ギャラリーやバイヤーの力を借りていました。
その点、芸術というより、やっぱり現代的なアートだなと感じましたね。本来芸術と貨幣経済(マネー)とは相容れないものであったわけですが、アートはマネーの力を借りてパワーアップします。コマーシャリズムとの共存が現代アートの一つの生き方であります。
草間さんはまさにその最先端を行っているなと感じました。84歳にしてその先端性。おそるべき「闘魂」の持ち主ですね。今を否定するのは簡単です。否定するのではなくて、相手の存在を認めてともに戦っていく姿勢。見習わねばなりませんね。
毎日、精神科の病院から自らのアトリエに通う草間さん。私たちが知りえない苦悩もたくさんあることでしょう。自殺願望も常にあると言います。ある意味「死」と常に戦っているとも言えます。
あの水玉模様は素粒子なのでしょうか、それとも星々なのでしょう、いや、もしかすると宇宙そのものかもしれません。
そして、草間彌生さんは素粒子の、星々の、宇宙の一生を体現しているかもしれないと、ふと思いました。
ps 草間さんのデザインしたあの犬(リンリンなど)、なんとなくウナギイヌを彷彿とさせますな。
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