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2011.07.31

『没後150年 歌川国芳展 江戸の奇才浮世絵師』 (静岡市立美術館)

110709_img_01 まりに豪華なご馳走で気持ちが悪くなってしまった。そんな感じです。
 ちょうどそう、3D映画を見終ったような疲労感。それなりに楽しめたのだが、なんというかもうちょっと違う観賞法で見てみたいというか。
 見終って私はすぐにつぶやきました。

「国芳おそるべし。詳しくはブログに書こう。しかし江戸の絵画をああやって美術館に並べてみんなで鑑賞するのはナシだな。一枚を自分の懐に入れて持ち歩き、時々出しては独りニヤニヤ愛でるのが正しいやり方だろう」

 つまりそういうことなのです。いわば江戸小唄と浄瑠璃と歌舞伎をごっちゃにオペラハウスで鑑賞したような感じですね。
 いかに国芳が西洋絵画の影響を受けていようとも、やはり「近世日本」は「近代ヨーロッパ」とは相容れません。国芳も苦笑していることでしょう。
 しかしすごいと思ったのは事実ですよ。すごすぎて圧倒されたとも言えましょう。何がすごいって、まあ言い出せばキリがないでしょうから、一つに絞りましょう。
 先ほど3Dという話が出ましたよね。そう、私の絵画観賞法は必ず独眼流立体視の術用います。
 何年か前、山梨県立博物館で北斎と広重を見ました。その時の記事に、北斎と広重二人の、3Dを2Dにする方法に関する考察を書きました。
 では国芳はどうだったか。それが面白かったんですよね。基本国芳は広重流だと思いました。しかし、そこにある意味北斎流も混入している、というか融合されているように感じました。そして、それこそが「疲れる」流だったのかもしれません。
 西洋の遠近法は、実際に人間の眼で見た遠近感を理想とします。つまり一眼レフカメラ用レンズで言えば、90ミリあたりのパースペクティヴですね。広重はそこに根ざしている感じがします。広重をずっと見ていても疲れないのは、そのあたりに理由がありそうです。
 広重を評して「遠近法が強調されている」というのは、実は正しくありません。彼の強調とはあくまでステレオ写真における前景と背景の配置の工夫であって、決して広角レンズ風な「パースペクティヴの強調」ではありません。
 では国芳はどうであったか。これこそ今流行りの3D映画のような露骨なエンファシスだと感じました。
 3D映画の遠近法というのは、そのシステム自体の自己主張のために、いかに現実的な3D感(自然で日常的な無意識的な風景)と違うものを見せるかを意図しています。
 しかし、一方で3D映画が北斎のような空間の歪みを表現したらどうでしょうか。たぶん、「失敗」「下手くそ」と見なされることでしょう。つまり論理的な遠近法と空間座標の中でのリアリズムではないと「不自然」になってしまうのです(逆に言うと、北斎は脳内のリアリズムに徹した)。
 国芳はまさに西洋的な遠近法の中で、様々な交換レンズを使って「遠近感を強調」しているなと感じました。それも一つの画面の中にいくつもの焦点距離を持ってきている感じ。それはまさに現代の3D映画の技法と同じです。ある部分だけ突然飛び出したりする。
 だから疲れたのだろうと思います。広重は論理的に自然、北斎は脳内感覚的に自然だから疲れない。国芳はあまりに現代的なのです。おそるべし天才。
 ところで、もう一つ昨日のつぶやきを。

「3D、3Dって騒ぎすぎだな。だってこの目の前の現実が完全に3Dだもん。だから、たとえば映画なら4Dである(過去も未来も見せられるという)点について騒ぐべきだろう」

 そういう視点で言うと、国芳は2Dでありながら、思いっきり4Dでしたね。時間を封じ込め、止まっているのに動いている。過去も現在も未来も全て「静止」の中に放り込んである。時間軸が究極に自由なんですね。だから四次元。
 いや、5Dかもしれない。いやもっと多次元かも。発想の自由さとユーモアは現実世界のあらゆる次元を軽く超越していますからね。それをあれだけ見せられれば、そりゃあ疲れるわ。
 ぜひとも1枚、お気に入りを入手して、懐に入れて持ち歩きたいものです。そして時々取り出しては独りニヤニヤしてみたいものです。
 おそるべし国芳。彼の高笑いが聞こえてきそうです。

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