劇団四季 『ユタと不思議な仲間たち』
中学の芸術鑑賞で四季劇場へ。私にとっては十数年ぶりの「ユタ」。一度目の時とは全く違う感動を得ることができました。うむ、体験は体験を豊かにするのだな。
まずは脚本。最初のユタ体験ののち、東京で育ったもやしっ子の私は東北の女と結婚し、まさにユタ的な体験を数々いたしました。いやもちろんいじめられたわけではありませんが、あの言葉や生活文化にさらされては、孤独にならないわけにはいきません。ユタの気持ちはよ〜く分かります。
そして、その後カミさんを通じて多くの東北の歴史や文化や言語を学び、ある意味では地元の方の気づかない東北の魅力を感じ取り、発信してきました。
ユタ(勇太)もそうなんですよね。彼自身も東北(田舎)の良さ、生命の素晴らしさ、仲間の大切さ、そして「見えないモノ」としての「座敷童」の存在に気づくわけですが、それと同時に地元の人たちもそれに気づかされていく。ふむふむ、まさに私はユタであったのだ!(笑)
いや、冗談でなくものすごく共感してしまいました。そしてそういう異文化交流ってお互いのために重要だなと再確認。
「文化」の象徴は「言語」だというのも体験的に納得させられました。最後ユタは「んだ」など東北弁を話すようになっていましたからね。それもよ〜く分かります。
東北が持つ「モノ」文化については、何度も書いてきましたね。それを東北側から都会(東京→世界)に発信したのが、たとえば寺山修司であり、土方巽であったと思います。逆に都会側から東北の「モノ」文化にアプローチしたのが、たとえば白井晟一。このブログでも彼らを何度か取り上げてきました(たとえばこちら)。
それから今回の観賞のテーマとして「音楽」というのも大きな要素でした。初回ではほとんど意識していなかったのですが。
作曲は三木たかし先生、作詞は岩谷時子先生、編曲は宮川彬良先生。
いやあ、すごすぎました。特に三木先生。東北を舞台とした純日本的な脚本、それも東北弁の歌詞に、あれらの楽曲を乗せるとは…もうその時点で天才だと感じました。
これも体験が体験を豊かにする例ですね。カミさんと結婚してから、私は歌謡曲に興味を持ち、ともに歌謡曲バンドを結成して、たとえば「三木たかし特集」なんかを演奏してきました。
すなわち70年代洋楽のエッセンスがたっぷりだったんですよね。ロック、ポップス、ジャズ、フュージョン。いかに三木先生がそれらをよく勉強されていたかが分かりました。
そこに民謡、演歌などの要素も加わり、さながら音楽の国際見本市状態。そしてそれが全く違和感なく楽しめる。ジャンルを超えたレベルの高い楽曲の数々に驚きを隠せませんでした。もちろん、宮川先生の編曲の妙もありますよ。
全体としてはマルチインターナショナルな昭和歌謡の歴史を俯瞰したような感じでしたね。三木先生のあの名曲たちの顔もチラチラと(たとえば「夜桜お七」なんか結構露骨に顔を出していましたね)。
なんか順番が逆になってしまいましたけれど、もちろん役者陣の見事な歌と踊りとセリフ回し、浅利慶太さんの演出、見事な舞台装置にも感動しましたよ。プロ中のブロの仕事を生で体験する喜びです。
安定したベテラン陣に囲まれて、ユタ役の上川一哉さんの演技の誠実さが際立っていましたね。彼にはまだまだ伸びしろがあるなと感じました。それはある意味誠実純粋すぎるところがあるということでもあります。今後にさらに期待しましょう。
生徒たちもそれなりに感じるところが多くあったのではないでしょうか。内容的にもいろいろな意味でタイムリーであったと思いますし、なにしろ世界レベルの最高の総合芸術に生で触れることの教育的価値、いやいやそんな教育とかじゃなくて、体験としての価値は何ものにも代え難いと思います。
彼らもまたより多くの体験を積んで、十年後二十年後にこの作品を観てほしいですね。
体験は体験を豊かにする。
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コメント
おはようございます。
私も数年前、娘を連れて『ユタ』を観に行きました。
最初は乗り気でなかった娘も、あの一種独特の雰囲気に引き込まれていたようでした。そして、そういう体験をすることで、「なんだかわからないモノ」を感じてくれたらいいなあと思っています。
投稿: 松原恵子 | 2011.06.03 10:28