BUMP OF CHICKEN 『Smile』
まったく意外なところからバンプの「Smile」について記事を書いてくれと頼まれました。
私もこの曲を聴いて思うところがありましたが、どうもここ数ヶ月、つまり震災があってからのち、「歌」についてそれまでのように軽々と口にできなくなっており、その思いも置いてけぼりになっていました。
それまでの流れですと、フジファブリックや志村くんのこと、レミオロメンのこと、そしてバンプのこと、あるいは心にとまったメレンゲの「アポリア」のことなど、いろいろ書くべきだったのでしょうが、なかなかそういう気分になれないでいました。
中にはそういう記事を期待している読者の方もいらっしゃると思いますが、本当にすみません。
ただ今日はあまりに特別な人から「書いて!」と頼まれたので、今までのいろいろな思いも含めて書くことといたしました。
そのあまりに特別な人とは…姉貴です(笑)。
そう、私には姉が一人います。私より四つ上ですから、もう半世紀も生きている女です。その姉からこんなお願いをされるなんて、この前会った時、つまり今年の正月には全く予想していませんでした。
姉は、ある意味私よりもマニアックで妙な人生を歩んでいる人間であり、音楽の遍歴もまあ渾沌としております。しかし、考えてみると、私が音楽、すなわちビートルズに出会ったのも姉のおかげですし、その後、寺山修司に出会ったり、小津安二郎に出会ったりしたのも、まあ姉の影響が大なのであります。
そんな彼女が、まさか今 BUMP OF CHICKEN にはまっているとは…夢にも想いませんでした。
先方もそれは同様で、まさか私がこのブログでバンプについてけっこう語っているということも、ライヴに行っているということも、あるいは藤原基央くんとある人を通じて微妙に近い関係にあるということも、全く想定外であったようでした。
それで電話口で互いに大変な興奮のしようでありまして、まあいい歳したオジサンとオバサンが「永遠の中二病」(もちろん褒め言葉ですよ)に浮かされている異様な光景が出現したのでありました。というか、姉弟でここまで真剣に話したのは何十年ぶりかも(笑)。
というわけで、まずは実際にこの曲を聴いてみましょう。あえて歌詞が確認できる動画を貼ります。井上雅彦さんとのコラボですね。震災のチャリティーという形をとっています。
Smile BUMP OF CHICKEN×井上雄彦 投稿者 plutoatom
あえて今回は語らないことにします。特にこの曲や詩については、私は語るべきではありません。代わりに私自身の気持ちを書かせていただきます。おそらくこの裏返しが藤原くんの、井上さんの、そしてメンバーの、プロとしての気持ちだと想像するからです。
震災の日から、私なりに「歌」の意味を考える時間が多くなりました。それまでの私は、音楽や文学を、単なる楽しみとして享受し、そして発信してきました。いわば趣味の領域の中でそれらとつきあってきたのです。
しかし、あのような大惨事が発生し、自分がやってきたそれらの価値や力といったものについて考えざるをえない状況に追い込まれ、あるいは自分自身の音楽や言葉にはたして魂や志といったものがあったのか、そして今もあるのか、誰からともなく責められているような気持ちになりました。
そのような懊悩の中で、出演予定のコンサートもいくつかキャンセルしました。また四半世紀運営に携わってきた夏の古楽祭も中止を決定しました。また夏に発刊予定の合同歌集に載せる短歌やエッセイについても、改作や新作を余儀なくされてきました。
歌集と言えば、その中に志村くんへの追悼の歌を入れるべきかいなかも迷いました。私なりに人の生と死について考える中での迷いです。
しかし、他の歌人の皆さんの御理解と後押しで、それも結果的に入れることにいたしました。こんな時だからこそ、こんな私でも、いろいろな人に支えられ、励まされ、勇気づけられて前進することができています。
「歌」…歌には本来、言葉と旋律とリズムがあります。そのいずれもが、単なる「遊び(すさび)」ではなく、命の「うつし(映し・移し)」であることを、それこそ歌歴ウン十年のオジサンが、ようやく気づかされたのであります。
藤原くんの紡いだ「歌」はまさに命のうつしでありました。
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コメント
はじめまして。
いつも楽しみに拝読しています。
私は昨年、39歳でBUMP OF CHICKENにはまり、
そのはまり方がさらに深化しているのですが、
お姉様の記事を読んで、上には上がいらっしゃるのだと
安心してしまいました(笑)。
「Smile」の庵主さんの記事を読みました。何度も。
”あえて語らない”というその姿勢に、
(勿論、語っていただきたい気持ちは山々なのですが)
庵主さんの人間らしさを感じました。
庵主さんは、人間から生まれる歌(をはじめとする作品)を
こよなく愛していらっしゃるんだろうと想像します。
その、歌に対する愛情やリスペクトが、
今回の「一見不誠実なようで誠実」なスタイルにつながったのかな、と
自分なりに理解しました。
いきなりの長文、失礼しました。
これからも、清濁混沌とした庵主さんの記事を読むのを
楽しみにしています。
投稿: 富乃宝山 | 2011.06.10 10:38
どうも厨二病です。
今日、衝動的に「smile」買っちゃいました(笑)。
全身がポカポカあったかくなる優しい歌ですね。
今回の震災の事を考えながら聴いたら泣きそうになりました。
DVDはまだ見ていないのですが、また今度みてみたいと思います。
よかったら、貸しましょうか?
投稿: 厨二病幹事長 | 2011.06.12 21:28
ん?!?!姉さんですか?!私は素直に生きたいです。素直に歌いたいです。素直に会いたいです。
投稿: ピレミン | 2011.07.25 20:35