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2011.05.14

大宮八幡宮薪能〜隅田川

Ohmiyatakiginou_h23 並の大宮八幡宮で薪能を堪能してまいりました。
 この薪能にはここのところ毎年行っております。教え子が野村四郎先生の弟子となり、この薪能に出演するようになったからです。
 彼女、今年は舞囃子「養老」の地謡と「隅田川」の作り物の出し入れを担当しておりました。舞が見られなかったのは残念ですが、地謡では声がよく通っており、精進の様子がうかがえました。大変な世界で頑張っていて偉いなあと思いました。
 さてさて、本日の番組は「養老」と狂言「清水」、そして能「隅田川」。「養老」と「清水」も充分楽しめましたが、なんと言っても「隅田川」の素晴らしさには、これは変な表現ですが「身の毛がよだつ」ほどでした。
 子を失った狂女を演じた四郎先生にはまさに「鬼気」が迫っておりました。能の本質「モノマネ」を見たような気がしましたね。
 つまり、「モノマネ」とは「モノ(霊)」を「招く」ということなのです。まあ簡単に言えば憑依ですね。演者自体が媒体となって霊界とつながる…それこそが能の、いや芸能全般の本質なのです。
Img_2312 大宮八幡の神気とも相俟って特殊な空間が現出していたように感じました。そのせいか、途中スタッフの方が突然大きな音とともに倒れるというアクシデントもありましたが、なんというかそのせいで興が醒めるというようなことはなく、逆にさもなりなんと思ってしまいました。
 私はいつものように、あえて椅子に座らず立って観賞していました。その方が体全体で空気を感じられるし、実際よく見えるからです(眠くならないというのもありますが)。観世の時代、社や市で行われていた能では、おそらくこうして立って観ていたのではないかな、などと思います。能楽堂などでまるでクラシック音楽を聴くかのように行儀よく座って(寝て?)いるのも結構ですが、こうしてスタンディングで演者と一体化するのもいいかと思います。実際、四郎先生の動きに連動して体が微妙に動きましたからね。ライヴだなあと感じました。
 この隅田川は、死んだ子どもに対する弔いの意味が大きい作品です。子どもの死というのは、当時としてはけっこう日常だったと思いますが、このたび大震災があって、子どもも含めて多くの命が失われたことを思うと、あの「南無阿弥陀仏」の念仏の合唱は、まさに霊界への呼びかけであったと思います。
Img_2315 念仏の中に子どもの声が聞こえるシーンでは、思わず涙が溢れ出てしまいました。まるで空から聞こえてくるような、あのぽっかり浮かんだ朧月から聞こえてくるような、不思議な感じがしました。
 そして、この能の作者である元雅と父世阿弥の「子方」論争の部分…最後に亡くなった子どもの亡霊を登場させるべきか否か…ですが、今回は登場しない形をとっていました。つまり、世阿弥の解釈を採用したということです。
 これは私は正解だったと思います。このたびの震災のように不特定多数の方々が亡くなった事実を受けるならば、あの物語における子どもの霊は、私たちの想像力によって一般化されるべきだと思うからです。私たちはあの塚の後に、それぞれの「子方」を見ていたことでしょう。
 命に対する弔いにおいては、日常語や日常の生活動作は全く力を発揮できません。私も今回それを実感しています。そんな時、この気持ち、いや気持ち以前の魂の震えのようなモノを表現できるのは、結局こうした芸能であり、物語であると思います。
Img_2325 芸術や芸能の価値とは、実はこういうところにあるのではないでしょうか。期せずしてそれを痛感することになりました。
 それにしても、能はすごい。14、15世紀にすでにあんな、西洋のオペラをしのぐ歌舞や表現が完成していたわけですからね。何かを際立たせるという意味ではバロック的な表現でしょうか。しかし、根本は引き算の発想です。削ぎ落として削ぎ落として、そしてこちら側の想像力と創造力を最大限に発揮させ、大胆な表現を実現している。それを当時の庶民までが楽しんでいたわけですから、日本恐るべしです。
 ううむ、もう一度あの空間で観たい。本当に特別な経験をさせていただきました。ありがとうございます。


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