『全日本プロレスSP〜チカラをひとつに〜』 (FIGHTING TV サムライ)
大震災の10日後、両国国技館大会を決行した全日本プロレス。彼らは11日当日、石巻大会が予定されており、スタッフはすでに現地入り、選手たちは会場へ向けて仙台市内を移動中でした。つまり、彼らは被災していたのです。
地震の瞬間、津波の瞬間、被災地の現実、そして被災した彼らだからこそできたであろう両国大会への軌跡を追うドキュメント番組でした。地震関連の番組に正直ウンザリ気味だったウチの娘たちも、ものすごい集中力で観ておりました。ま、あいつらブードゥー・マーダーズのファンだし(特にTARU選手)。
その内容についてはこちらのブログで活字化されております(GJ!)ので是非ご覧ください。なにしろマニアックすぎるCS局なので誰でも観られるわけではありませんから(笑)。
武藤社長、諏訪間選手、TARU選手、近藤選手、阿部リングアナのインタビューを中心に構成された番組でした。そうそう、カズ・ハヤシ選手のナレーションが最高に上手でした。プロのナレーターかと思いました。さすが世界レベルのエンターテイナーは違いますねえ。特に間の取り方。プロレスに通じます。
インタビューではやはり、阪神淡路大震災でも現地で被災したTARU選手の言葉が重かった。そして、経験というのが、どの世界でもモノを言うということを再確認。
それにしてもみんな紙一重だったのですね。遅刻したのは誰だろう。そのレスラーが遅刻していなかったら海岸を走っていた…その他にもいろいろな偶然が重なっているように感じました。本当に運命というのはどうなるか分からないものです。
そして非常に興味深かったのは近藤修二選手の体験と感情です。彼は単身鉄道で石巻に向かっていました。大変な被害を受けた野蒜駅の隣の駅に停車中、地震と津波に襲われたようです。その時のことをこう騙りました。
「もし津波がきたとしたら窓をぶち破ってでも一人だけその崖を登って行ってやろうという覚悟はできてたからね。最悪、一人でもいいから登ってやろうという…『死ぬか生きるか』というところ。もう、助けあおうと綺麗事を言ってられない状況になる。 助け合いしててみんな流されちゃったら意味ないし。『本当に死ぬのか』っていう時には一人でも助かってやろうという気持ちになると思うんだよね。そこはリアルなところ。 綺麗な話とかが流れたりするかもしれないけど、実際、自分がその気持ちには…。自分が死んでもいいから助けようという気持ちに思う人っていうのは相当な人だよね」
その後避難所へ行っても一種の「冷たさ」を感じたようです。それも現実でしょうし、それも人間でしょう。私たち被災していない人間が、とかく「美談」で納得したり満足したり安心したりするばかりではいけないということです。
また、彼の発言で実に興味深かったのは、「怒り」という言葉です。自然に対する怒り。地震や津波に対する怒り。自然と共生なんていう、それこそ美談ではなく、自然に絶対に負けない!クソーッ!という「怒り」。
もちろん、彼が現代の「モノノフ」であるプロレスラーであるということも考慮に入れなければならないとは思いますが、こうした「想定外」の「モノ」に接した時に、ただただひれ伏すだけでなく、こうして「怒り」が湧いてきて、そしてそれを行動に昇華するということも、私たちにはたしかにあるなと思いました。
その「怒り」のおかげで、彼はある意味奇跡的に東京に帰って来れました。そして、その「怒り」のやり場としての両国国技館。リング。闘い。
なるほど、それもまた「祭」の原点であると思いました。私はそうした自然災害と祭祀論を語る時に、どうしても「懐柔」や「服従」や「ご機嫌取り」の方に話を持って行きがちでした。しかし、考えてみると、日本の祭、いや世界の祭には、けっこうとんでもなく荒々しく危険な挑戦的なものが多くありますよね。御柱祭とか、当地の火祭りとか。
それってある意味、自然の(神の)怒りと人間の怒りとを「真釣る」ということでもあるのかなと思いました。相撲の四股にしても、地の神の怒りを人間の怒りの表現で封じ込める儀式であるとも言えますね。
そうして考えると、ますます神事としてのプロレスというものが興味深く感じられます。そういうヒントが、非常事態のモノノフたちによって体現されたのが、あの両国大会であったのかもしれません。
日本の神道は宗教にはあらず。もっと根源的、プリミティヴな人間の魂の部分から生じたシステムなのかもしれませんね。
それにしても賛否両論ある中よくぞ決断し、そして成功させました。富士吉田の雄、武藤敬司社長あっぱれであります。彼こそ現代の神官なのかもしれませんね。地元の者としてうれしい限りです。
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