フジファブリック 『桜の季節』
フジファブリックpresents フジフジ富士Q 完全版上映會、無事終了したようです。たくさんの方がいろいろな思いであの日の映像を観て、あの日の音を聴いたことでしょう。
終了後に3人のメンバーが、ファンにこのようなメッセージを送ったそうです。うれしいことですし安心しましたね。ぜひがんばってほしいと思います。今年中に新しい音が聴けることでしょう。
さて、ファンの方はご存知のように、今日はメジャーデビューシングル「桜の季節」が発売されてちょうど7年目ということになります。7歳の誕生日とも言えますね。
今日の富士吉田はポカポカと暖かく、桜も3分咲きになりました。こちら富士北麓では梅と桜がほぼ同時に咲きます。長い冬が終わってようやく雪が解け、そしていっせいに花が咲き始めるのです。
写真は、我が校の母体となっている月江寺の境内の桜です。志村くんも子どもの頃よく遊んだところですね。また、東京へ出てからも時々帰ってきては、ここ月江寺の池の端のベンチに座って、この木の下で一服していた場所です。この池にはあひるがいるんですけど、なんか、志村くんとあひる仲良さそう、そんな気がします(笑)。
さて、「桜の季節」、デビュー曲にしてこれですからね。フジファブリックらしさ満載、志村くんらしさ満載の楽曲です。
歌詞ももちろんユニークです。日本的な桜と言えば「散る」や「舞う」が代表的な動詞ですね。「桜のように舞い散ってしまうのならばやるせない」はある意味伝統的な「もののあはれ」の世界観です。
しかし、「桜が枯れた頃」という表現は新しい。もちろん木として枯れるのではなく、桜の葉が枯れる秋を想像してのことでしょうけれど、まあ普通じゃないですね。すさまじい想像力です。
「作り話に花を咲かせ」という表現もまた「やられた!」という感じですね。リアル世界の「舞い散る」「枯れた」に対して、フィクションは「咲く」わけですから。うまいコントラストです。
遠くの町へ行く人、手紙の相手は誰かというと、きっと自分自身なのだと思います。もちろん志村くん自身であり、私たち自身なのでしょう。そういう普遍性のある詩ですね。
音楽的にも実に面白い。ものすごい個性です。
イントロで持っていくのがフジの特徴ですね。特に彼らの場合はイントロがその後の曲から独立している(有機的に結びついていない)ことか多いんですよね。イントロがまるで別の作品のごとく輝くことが多い。不思議なイントロです。
そしてAメロでいきなり志村節になりますね。あえてコードをつけるならGm→Cmとなって、イントロと関連性がないとは言えないのですが、実を言うと、Aメロってコード感がないんですよ。
つまり、ベースの音と五度の音だけで構成されていて、西洋音楽的に間を補う三度の音がないんです。いわば日本の伝統音楽なんですね。志村くんの歌うメロディーは短調の二六抜きどころか、四も抜かれている、とんでもなくプリミティブな音階です。それがかっこいい。フジファブリックらしさですね。
もちろん山内くんのギターや金澤くんのピアノはコードを弾いているんですが、絶妙にテンションを入れたり、頻繁に動いたりして和声感を消し去っていますね。曲の本質をよく理解したアレンジだと思います。
そして、いきなり器楽の間奏になってしまう。普通のロックやJ-POPでは考えられませんよ。ここでは先ほどオミットされていた二四六の音がピアノで奏でられていわゆる西洋音楽モードを感じさせます。この「おいしく木に竹を接ぐ感じ」がフジらしさの一つでしょう。
そしてBメロというか、もうサビなのかなあ…彼らの楽曲にはそういう一般的なカテゴライズが適用できませんね。カミさんはこの曲はサビ入りで、ここの部分はCメロ的なイメージがあるって言ってます。なるほどね。たしかに。
とにかく盛り上がりそうで盛り上がらない、さっき出てきたプチ間奏に落ち着いてしまうと言うワケのわからん(笑)構成になっていますねえ。いきそうでいかないってヤツですかね。個性的すぎます。
たしかにそのあと冒頭のメロディーが戻って間奏に入っていきますから、いちおうサビ入りって言えるかもなあ。そして、そのピアノのレッスンのようなスケールによる間奏が面白い。これってすごいセンスと勇気を要する部分ですよ。普通のプロは絶対やらない技です。プロ中のプロだけができる技。
実はクラシックの世界でも、超一流の超一流の曲は露骨な音階をうまく使っているケースが多いんですよ。そう意識して名曲を聴いてみてください。
で、これがまた間奏かと思うと歌がかぶってくる。いったいどういう感性してるんでしょうね。
そしてツインギターのリフによる変ちくりんな間奏というか、もう間奏ばっかりですね(笑)、ここはもう西洋音楽的なルール観からしますとホントメチャクチャ。あり得ない不協和音の連続です。これって西洋音楽への挑戦状ですわ、こりゃ。もう最高に痛快です。
そこにまた歌が重なってくる。プログレをも超えていますね。なんなんだろう。分析するとメチャクチャですが、普通に楽曲として素直に聴けてしまうところが、彼らのすごいところですし、飽きないところですし、クセになるところです。これがデビュー作品かあ…。
今もカミさんが、「ああ!富士吉田の風景って感じ!」と言ってます。ふむ、たしかに変ちくりんなところが吉田らしいかもなあ。古いもと新しいものの混在(古いもの優勢)、日本と西洋の混沌(日本優勢)、都会的センスとは程遠いこの街並み…。
そして、至高の美である富士山と人間の汚れた部分のコントラスト。
近く富士吉田の市長選があります。この時代、こんなご時世になってもまだ、対立候補どうし下品な中傷ビラを配りまくる、この富士吉田というどうしようもない町、ある意味ものすごく個性的なのかもしれないなあ。
フジファブリックのファンの方々、志村正彦ファンの方々は、皆さん富士吉田を美化してくださいますが、実際にはホントだめだめでドロドロな困った町なんです。だからこそ、志村君のような才能が生まれたのでしょう。
泥の中に咲いた花なのかもしれません。そういう、私は彼をコノハナサクヤヒメの分霊だと思っています。桜の花そのものなんです。
桜のように舞い散ってしまうのならばやるせない…。
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コメント
こんにちわ。
東京は、月曜日の急な雨で桜が散ってしまい、ほとんど葉桜になってしまいました。
だけど、ピンクのじゅうたんは綺麗。
志村さんが市長になったとこを想像してしまいました。笑.
投稿: なじゅ | 2011.04.15 15:32
こんばんは。
昨年12月、「ラシーヌ讃歌」が出てきた記事のコメント欄にお邪魔した者です。
最近は地震についての記事を興味深く拝見しています。
実家が宮城にあるもので、色々と不安と心配ばかりが募っているのですが、納得したり、何となく覚悟のようなものを感じることが出来たりしています。
ありがとうございます。
先日のフジフジ富士Q 完全版上映會、行ってきました。
ただ「映像」として観るには色々な思いが入りすぎて難しく、でもライブでもないような…不思議な時間でした。
実家近くに、コノハナサクヤヒメを祀る神社があります。
町名ゆかりの神社でもあるので、「あの辺りにも志村さんがいてくれるのかな」と思ってしまいました。うまく表現できないのですが、少し気持ちが温かくなりました。
投稿: cacco | 2011.04.15 22:37
先生、こちらの桜はもう舞い散ってしまいました。
今年は満開の桜景色も例年とはまた違った気持ちで眺めました。
いつも為になる記事をありがとうございます。
従妹が千葉に住んでおり、房総沖の地震には注意するよう伝えましたが、やはり心配です。まだまだ不安な春ですね。
フジファブリックのメンバーのコメント、読みました。
なんだか感激してしまいました。頑張ってほしいと思います。
わが県にも調べてみると「コノハナサクヤヒメ」をお祀りした神社があるようです。また、足を伸ばしてみようかと思っています。
投稿: 松原恵子 | 2011.04.16 09:38
お久しぶりです。
私も自分の音楽ブログで桜の季節の事を書いていたんですけど、
先生(なれなれしくてすみません)と同じく、
“桜”が“枯れる”に着目していたので嬉しいです!
枯れるで秋……
私にはそこまで思いつきませんでした。
志村さんの枯れていく想いを桜にのせているのかと思ってました。
しかし、デビュー1発目で“やるせない”なんて
飛んでますよね!!
投稿: digger | 2011.04.24 17:07