テレマン 受難のソナタ
今日は聖金曜日。受難日です。
イエスが十字架に磔となり息絶えた日ということです。キリスト者ではない私もこの日は人類の罪に思いを馳せます。
そして、受難曲を演奏したり聴いたりします。やはり、受難曲と言えばどうしてもバッハのマタイとヨハネを思い出してしまいますね。あの二曲はたしかにとんでもない音楽です。宇宙に存在するであろう全ての音楽の中の最高峰であることは間違いありません。人類の誇るべき遺産です。あの音楽が生んだというだけでも、キリスト教はすごいと思います。イエスの死の力を感じます。
そうそう、去年のレントには、初音ミク(たち)の歌うマタイ受難曲に本気で泣きましたっけ(笑)。いや、(泣)です。ヴォーカロイドさえも受け入れるバッハの音楽の普遍性は恐ろしい。
しかし、バッハの存命当時、その奇跡の音楽はそれほど人気があったわけではありません。はっきり言って難解であり、長すぎ、暗すぎたのだと思います。
当然、受難のあとには復活があるわけであり、たとえば現代の日本でも、受難よりもその三日後の復活、すなわちイースターの方についつい気が向くじゃないですか。ルター派台頭の当時も大衆はそんな感じだったのだと思います。
そんな大衆に人気の受難曲をたくさん書いた作曲家に、当時の大人気作曲家、バッハの友人でもあったゲオルク・フィリップ・テレマンがいます。彼は受難曲だけでも50曲近く作曲しているんですよ。
そのうち、現代において最も早く録音されたものに、クルト・レーデル指揮のマルコ受難曲があります。この録音の前奏曲というか導入曲というかシンフォニアというかが、ある意味有名になりました。まずは聴いてみてください。美しい曲です。
それこそバッハの受難曲の、あの重厚なイントロとは大違いですね。受難のイメージが逆転してしまいます。この演奏、その美しさのために、時々「バロック名曲集」などに収録されまして、それで有名になりました。
しかし、実はこれオリジナルじゃないんですよねえ。つまり実際のこのマルコ受難曲には前奏はないのです。いきなりコラールから始まる(たしか)。テレマンの受難曲にはそういうものが多い。というか、当時の「オラトリオ受難曲」はたいがいそうだったようです。
では、この美しい曲はなんなのかというと、実は受難曲は受難曲でも別の曲、その名も「受難オラトリオ『聖なる熟慮(Das Selige Erwägen)』」の冒頭のソナタの編曲版なのです。
おそらく、テレマンの受難曲というある意味マイナーな楽曲の録音に際して、レーデルがバッハのあの壮大なイントロを想起して、それに対抗するためにこういうロマンチックな編曲をほどこして付加したんでしょうね。ある意味見事なお仕事です。
この曲のオリジナル版の録音も聴くことができました。私も今日初めて聴きました。こちらは現代風な古楽器演奏ですから、テンポも倍、あっという間に終わってしまいます。視聴の1分にぴったり収まってしまっている(笑)。
こちらをクリックして視聴してみてください。
これはこれでまた違う美しさがありますね。このあっさりとしたシンプルさは、やはりバッハの対極にあります。
かえすがえすもこの二人は対照的ですねえ。しかし互いに尊敬し合っていたと言います。バッハは次男に「フィリップ」の名を与えます。テレマンにちなんだと言います。その次男はのちにどちらかというと父親よりもテレマンに似た大作曲家となりました。
そういえば、聖書によると、イエスが磔刑に処され息絶えたのち大地震が起き、人々はイエスが神の子であったことに気づくんですよね。もう地震は勘弁願いたいところですが、この震災を機に私たちもいろいろなことに気づかねばなりませんね。
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