有財でも七施
今日のNHKクローズアップ現代のテーマは「岐路に立つお寺~問われる宗教の役割~」でした。
葬儀業者が経営するハイテク墓地(納骨堂ビルディング)に押され、従来の墓地経営や法事収入が立ち行かなくなる寺が続出していると言います。
葬儀業者の「○倍の売り上げを目論みます」という言葉になんとも哀しい気持ちになりましたね。ご先祖様はいったいどんな気持ちであのハイテク納骨堂にビルトインされているのだろう。
もちろん、檀家制度にあぐらをかいた旧来の仏教界にも大問題がありますよ。ちょうど歌舞伎や大相撲や、あるいは政治に対するバッシングの原因と同じです。たしかに腐敗しています。
すなわち「魂」や「志」が欠如してしまっているのです。坊主丸儲け…つまり坊主自体が市場経済、貨幣経済に魅入られてしまっている状態になると、檀家や信者も単なる消費者となり、市場原理を発動させますよね。あの永代供養料やお布施は「八百長」じゃないか!と。
これは双方にとって実に哀しいことです。
昨日、「無財の七施」の話を書きましたね。そのきっかけを作ってくれた校長先生が、今日の放課後、中学生たちにパンを差し入れしてくれました。学年末テストを前にして、夜9時まで学校で勉強しているからです(強制ではありませんよ)。本当にありがたいことです。
私もそのお布施のおこぼれをいただきながら、こんなことを思いました。
私たちは「持っているもの」があっても、「七施」をすることができる。
そう、昨日は『私たちは「持っているもの」がなくとも、自分の存在と行動だけで「布施」をすることができるのです』と書きましたね。それこそが、私たち凡夫のみならず、僧侶にも求められるべき姿であると考えるのももっともです。しかし、どうでしょう。たとえば今、私たち日本人は「無財」と言えるでしょうか。
実はほとんど「有財」ですよね。お釈迦様のおっしゃった「無財」は私たちの想像するレベルではありません。「無財」とは、布施を受ける立場を言うものなのです。昔のインドで言えば、まさに僧侶がそういう立場でしたね。
実は、それを現代日本に当てはめることはできないのです。ですから、昨日の「無財の七施」に共感したり感銘を受けたりした方は、ぜひとも次のステップにも登っていただきたい。それが「有財でも七施」なのです。
今日パンを差し入れて下さった校長先生は、お礼を言いに来た生徒たちに対して、本当に慈愛に満ちた目と顔と言葉と態度と心で接していました。「もの」としてのパンに「心」がこもっていました。
これこそが、ある意味理想的な形なのかもなと思いました。「もの」だけでもない、「心」だけでもない。そういう「布施」こそ、今の私たちに必要な行動と心構えなのかもしれません。もちろん、仏教界にも。
番組では東工大の上田紀行さんが、仏教への期待を語っていました。寺はコンビニの倍もある。町中にある寺には、人の、世の中の幸せを祈る人(お坊さん)がいる。このストレスフルな現代において、お寺はそういう場であってほしいと。
やはり、教育と宗教は、市場原理に対する最後の砦でありたいですね。校長先生ともそんな話をしました。ウチは仏教系の学校ですから、ぜったいに人の「心」や「魂」や「志」を守る場所であり続けたいですね。
実は今日、教育や宗教や、そしてそれに関わっている自分の無力さを感じざるを得ない哀しいこともありました。「命」を守る存在になれなかった自分が情けない。人は財の有無以前に本質的に「無力」なのです。だからこそ、これからもっと純粋に「布施」していかねばならないと感じたのです。「無力」だからこそ、無限に布施し続けることができるのでしょう。
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コメント
先生こんにちは!
前の「無財の七施」も非常に心に響くものでした。お寺の在り方も、家を建てるにあたり和尚さんと一悶着ありまして…いろいろ考えるところです。
社会的に話題になったお寺問題も私の住む街でありましたし、実家は多大な影響を受けました。
みんなが「無財の七施」を知っていれば、世の中変わりそう。
今からでも意識していきたいです。
良いお話 ありがとうございました。
投稿: さお | 2011.03.02 13:41
庵主さん、こんにちは。
昨日、今日のお布施の内容にとても共感するものがありました。
そして、自分と周りのために働くということができるのは本当にありがたいことだと改めて感謝しています。
働くこと(家庭内でのことも含めて)を通じて、自分も周りも喜ぶことができるように精進したいと思います。
投稿: ニキータ | 2011.03.02 14:42