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2011.02.23

『志村正彦全詩集』 志村正彦 (PARCO出版)

20110224_72802 さに「文学」。「文学」はここに生きていました。
 おととしの聖夜に天に帰った志村正彦くんの遺した「詩」の全てが収載されているこの本。たしかにパブリッシュされた「音楽作品」の「詞」としては、これが全てなのかもしれません。しかし、実際にはもっとたくさんの断片や言葉の胚胎を残していますし、きっと今でも毎日のようにせっせと言葉と音楽を生み出し続けているでしょうから、「全」というのはあくまでも私たちこちら側の事情によるレトリックです。
 実は、こうしたレトリックを施されることこそが、「文学」の証であるとも言えます。「全集」が編集、発行されるということには、そういう意味があるのです。ある部分ではやはり哀しいことではありますが、こうして彼は永遠の芸術家となっていくわけですね。
 それにしても、この詩集を手にした人は皆驚くことでしょう。CDの歌詞カードの世界と、こうした装丁、構成、そして縦書きの詩集の世界と、あまりにその風景や、そこから聴こえてくるメロディーが違うということに。
 これはある意味、志村くんにとっても想定外の試練だったと思います。なぜなら、全てのロックの「詞」が「詩」たりえるものではないからです。
 こうした装いを与えられて、また、旋律を奪われた丸裸の言葉になって、その底の浅さを露呈してしまった例を、私はいくつか知っています。あのビートルズでさえも、そうした陥穽に見事はまってしまいましたからね。
 その点、志村くんの言葉は、本当にひいき目でなく、見事に「詩」となり、「文学」となっていたので、これは違った意味において非常なる想定外な事態でした。
 こうして、純文学になることによって、彼の言葉は一層輝きを増したとも言えます。ある意味私の最も得意とする「文学的解釈」をいくらでもすることができます。解説を書けと言われれば書けますよ(笑)。
 そう、この本のより良いところは、解説すらもない全集だということです。彼の綴った言葉以外には、扉に彼の写真一枚と巻末に年譜があるだけです。
 これは、彼を心から愛し支えたスタッフの正しい判断だったと思います。彼にはこんな丸裸な言葉が似合います。彼自身は照れ臭いでしょうが。
Gedc0221 もちろん、そうした彼に近しい人たちの心をしっかり理解して見事な表現をした、装丁の名久井直子さんの素晴らしい仕事ぶりも賞賛に値します。このシンプルさ、文学らしさは、勇気のいる仕事です。
 編集の杉田淳子さんの仕事も素晴らしい。特にページ割りの見事さに脱帽。よく練られていますね。
 もちろんそれぞれ、内容がそれに充分堪えられるものだったからできた仕事でしょうが。
 そうそう、見てください。詩以外にも一つ(いや、正確に言うと二匹)志村くんの作品が。「ヤクザネコ」です。表紙と年譜のところにいます。発行日が昨日2月22日「猫の日」ですから、ちょうど良かったですね(笑)。この絵がまた可愛いんですよ。猫マニアで特に猫の絵については非常にうるさいウチのカミさんが「カワイ〜イ!」と言ってましたから、この点でも志村くんは天才であったと(笑)。
 私は、このブログで何度も「文学は死んだ」というようなことを書いてきました。もちろん、それは三島の死とともに「近代文学=小説」は死んだという文脈でもありましたし、一方、純文学の才能が、それこそ音楽やマンガやアニメなどの分野に流出したという文脈でもありました。
 その両方の意味で私は、この詩集から何か大きな答をもらったような気がします。この詩集を手に取って、久々に「文学な気分」になりました。
 そのおかげでしょうか、夏前に発行予定の歌集(私個人のものではなく合同歌集です)に収録するエッセイを一気に書き上げることができました。ブログの記事とは違って、文学的な文章を書くのには、「気分」が非常に重要なのです。志村くんありがとう。またお世話になってしまいました。
 その歌集には、彼を追悼する歌も入れたいと思っています。
 夏には、学校の図書室の棚に、さりげなくこの詩集と私の歌集を並べて置かせてもらおうかな。

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コメント

昨日買ってきました!
本当に装丁がすばらしい…。
箱から取り出した開けた瞬間、素人ながらに感激しました。
しかし、この猫、笑えますね(笑)
ちょっとした遊び心がいいですよね。
早く中身にも目を通したいです!
音ではなく文字になったとき、
詩がどんな風に変わるのか、楽しみです。

投稿: ユキ | 2011.02.24 12:39


山口くん、ひさしぶり。

いつもふてきタフな感じですね、見習いたいです。


『笹井宏之作品集・えーえんとくちから』

もよろしく。

をを、奇しくもパルコさん&名久井さん、


このすてき偶然が

なにかうれしい・・・

投稿: ひろえみ | 2011.02.24 20:53

皆さん、いつもコメントありがとうございます!

ひろえみさん、お久しぶり。
笹井宏之くんは、私の短歌の師匠笹公人さんが可愛がっていた青年です。
26歳で亡くなったんですよね。
「えーえんとくちから」の発売日が12月24日、志村くんの命日ですし、なんか因縁を感じますね。
それにしても若い才能が天に帰ってしまうのは、本当に残念です。

えーえんとくちから

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2011.02.25 09:06

こんなに声に出して詩を読んだのは何年ぶりでしょう。
ひとつひとつの言葉がじわ〜っと心に沁みてきました。
シンプルな装丁と構成が,なおさら志村くんの言葉を引き立てているのでしょうね。丁寧に愛情をこめて作られたのが伝わってきます。
それにしても,「ヤクザネコ」,最高です。
ぜひ,「ヤクザネコ」グッズを作ってほしいです。全部、買っちゃうかも。
そして,先生の歌集も楽しみです!

投稿: 松原恵子 | 2011.02.26 17:13

本日、詩集が届きました!
装丁も綺麗で素敵ですね。
これからじっくり読んでいこうと思います(o^-^o)

投稿: とも | 2011.02.26 20:25

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