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2011.01.12

『アンドロイド“人間らしさ”の追求』 (NHKクローズアップ現代)

20110113_93215 わっ、「不気味の谷」のズンドコ、いやいやドン底じゃないですかぁ。私のツボにはまりまくりました。負のツボ。
 まず、最初に言ってしまいましょう。これって、石黒浩教授にそっくりだからコワイんですよ!石黒さん自身、どこか「ニセモノ」っぽいんですから(失礼…笑)。
 「世界を変える8人の天才」の一人。「世界の100人の生きている天才」で26位。もうこの時点で、凡人ではないのです。天才の持つ一種の異様さ…「異形」。カリスマの持つ「異常さ」を、さらに忠実にコピーしようというのですから、もうこれは現世の事態ではなくなります。
 いやあ、自分そっくりのアンドロイドを作ろうという時点で、もうおかしいですよ。なんかそういう漫画かアニメがあったような…。
 そして実際それがスタジオで相並んでいる。これを観て、皆さんはどのように感じられたのでしょう。国谷裕子キャスター、正直いつもと違ってましたよ(笑)。
 いかに生身の(ホンモノの)人間に近づけるか…外見も動きも。たしかにですね、この試み自体は面白いと思いますよ。人間の認知科学、認知心理的な視点はごもっともですし、またデザイン文化の面で考えても、大変興味深い挑戦です。
 で、天才の領域は私には分かりませんので、ここからはごく個人的な意見というか、感覚というか、経験のようなものをお話します。
 ホンモノそっくりという時の「そっくり」のレベルと「不気味の谷」の問題ですね。これは科学というよりも文化的なものだと思うのです。
 私、とっても変な感覚を持っていまして、それはですね、「ニセ富士山」に対する生理的な嫌悪感、忌避のことなんです。なんのこっちゃ?という感じですよね。
Mt_ararat たとえば、このアララト山(ノアの箱船がたどりついたというトルコの山)の写真、ものすごく「怖い」んです。だって富士山にすごく似てるじゃないですか。そして、それが二つ並んでいる。もう本気で鳥肌ものです。ものすごく「不気味」に感じます。
 アララト山だけでなく、世界中の「○○富士」と言われるもの、あるいはそう言われていなくとも富士山と似たコニーデ型の火山を見ると、こういう精神的、肉体的な反応が起きるんです。
 国内でいうと、富士山より古く、より侵食の進んだ、愛鷹山とか八ケ岳とか鳥海山なんかも、その足もとを見るだけでもうダメなんです。なんというか、それこそ「物忌み」気分になってしまう。邪悪というか、まさに「もののけ」的な違和感、どうしようもない忌避感に襲われるんですよねえ。
 ちなみにこれに共感してくれる人はあんまりいない。カミさんなんか、全然分からないと言います。
 で、これって、何かとよく考えるんですが、どうも自分の幼少期の経験から来る部分があるらしい。
 それは…なんと「ウルトラセブン」のトラウマなのです。
6b41b1e4dadc1c66 ウルトラセブンってちょっとそういう怖さがあったじゃないですか。たとえば、あの実相寺昭雄監督の名作「第四惑星の悪夢」なんか、人間そっくりの(しかし微妙に違う…ように人間が演技していた)ロボット、すなわちアンドロイドが登場しました。あれって、まさに人間そっくり(演じているのが人間ですから)なので、その怖さが倍増したんですよね。
 また、上原正三脚本の「あなたはだぁれ?」も、夜中に団地がそっくり入れ替わって、住人も本当の人間とそっくりながら、実は侵略者、宇宙人であるという設定でした。家族とそっくりなのだけれども、微妙に表情や言葉が違い、実に「怖い」「不気味」。
 ニセウルトラセブンが出てきた時も、怖かったなあ。微妙にデザインや声が違うんだもん(笑)。
 幼い私は、それらを観てとんでもない恐怖感を味わいました。今ここにいる母親が実はニセモノで宇宙人ではないのか…とかね。団地に住んでましたし。
 よく父親と将棋したんですけど、真剣に将棋をしている時の父親の顔が、それこそいつもと違うアンドロイドのようになったのもよく覚えています。実は怖かった。
 で、これって、なんなのかというと、そういう信頼する、あるいは尊敬する、崇拝するものの「そっくりさん」が実は「邪悪」な心を持った何者かであるということ、その「逆転」に恐ろしい嫌悪を覚えるということだと思うんです。
 この前の「偽書」の話もそうですし、世の中の様々な「フェイク」や「替え玉」には、どこか「悪意」が混在するじゃないですか。人をだまそうという。だますためには、なるべくホンモノに近くする必要があるし、そのマネする対象も、普段特別視している(たとえばヒーローであったり、親族であったり、王であったり)を選ぶ必要がありますよね。
 それで、その「微妙」な差異に気づいた時のショックというか、感覚の反転が、いわゆる「不気味」になるのではないかと思うのです。富士山を愛しているからこそ、ニセ富士山を嫌悪するように。
 それからですね、日本の「リアリズム」の文化というのは、西洋と比べてかなり独特です。このブログでも何度も書いてきたように、たぶん、日本人のネオテニー的な要素から来るのだと思うのですが、たとえばアニメや漫画につながる浮世絵などの日本画の伝統を考えれば分かるとおり、日本では正確なデッサン(すなわちコピー)ではなく、「デフォルメ」に「リアル」を感じてきたわけです。
 そういう意味で、石黒さんが目指す「リアル」は、日本では受け入れられにくいのではないかと思いました。
 繊細な日本人の感性からしますと、よりリアルになる、そっくりになることによって、より一層、細部の「差異」「違い」「違和感」が増幅されてしまい、結果として「不気味の谷」を超えることができないどころか、どんどん谷が深くなっていってしまうのではないかと感じるのです。
 ま、あくまでトラウマを抱えたワタクシ個人の感覚ではありますが…。
 ただ、私の「モノ・コト論」で言いますと、「コト」は「モノ」に到達できないということなんですよね。人工、科学は自然には近づけるけれど、永遠に到達できないと。
 ヴァイオリンの音、演奏をコンピュータでは絶対に再現できないのと同じです。近くなれば近くなるほど「違和感」「不気味感」が増長されてしまう。
 その点、ヴォーカロイド、たとえば初音ミクがこれだけ愛されているのは面白いですね。あの割り切り(四捨五入)と、そしてあの極度に「日本的」な「キャラ」が与えられて、ようやくその「違和感」や「不気味感」を消し去ったのでしょう。うん、面白い。
 まあ、いずれにせよ、今回のクローズアップ現代は、ウルトラセブン以来の怖さでした(笑)。残念ながら番組の動画はありませんので、先月別の放送局で放映された以下の番組をご覧ください。皆さんは、「おっ!すごい!」と感じるか、それとも「こ、怖い…」と感じるか。

ps この動画を観ると、石黒さんが追究するものがまた別の「リアリティー」であることがわかりますね。少し安心しました(笑)。

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コメント

うーん、なるほどとうなってしまいました

いつも興味深く読ませてもらっている者です
わたしもこの番組を観たのですがなんとも観終わった後に重たい空気になってしまいました

なんとなく怖いのです
あの先生のお顔もリアリティがないのですが(失礼ですね)それに近ければ近いほど恐怖感がわくのかもしれませんね

富士山の話も納得です
はじめての場所に旅行に行ってなんとなく地元に似ていると安心感を覚えます
でも酷似しているとやっぱり怖いと感じると思います

だからあの番組を見てなんとなく感じた気持ちは正しかったと思えたのでした

投稿: ミルメ | 2011.01.13 13:17

「こ,怖い・・・。」です。単純に。
ウルトラセブン『第四惑星の悪夢』はつい最近,CSチャンネルで見ました。アンドロイドは人間が演じていたので,大人の私には怖くはありませんでした(笑)が,あれが本当にアンドロイドだったら,やっぱり怖いなあ。
それと,先生,ごめんなさい。私は初音ミクもちょっとコワイです・・・。

先生の,「コト」は「モノ」に到達できないというお考えには同感です。

私の住む土地にも『◯◯富士』と呼ばれる山があります。
でも,どう見ても,本物の富士山とは似ても似つかない,ちっちゃくてこっぽりとした可愛いおむすび山なのです。
この山であれば,先生も全く恐怖を感じないと思いますよ!!

投稿: 松原恵子 | 2011.01.13 17:01

能楽師(見習)です。いつも興味深く拝見しております。
能の場合、基本的には勿論本物を真似る訳ですが、本物への憚りというか遠慮というか畏敬の念というかで、敢えて微妙に本物と変える、という事をよくしますね。
単純に「真似る」のなら、そっくりそのまま全部真似した方が一見リアリティがありそうですけど、敢えてそうしない所が面白いと思いますがいかがでしょうか?リアルって何だろうみたいな話になりますね。リアルならそれでいいのか?リアルの先に何か有りそうです。ワクワク!

投稿: 匿名 | 2011.01.13 21:23

久々にのぞいて見たら、恐怖とコワいもの見たさで引きずり込まれて
しまいました(笑)。
「あなたはだぁれ」は私もマジ怖かったです。団地っ子でしたし…。
子供にとってのリアリティって親とか住んでる家ですし、
そういうものに強く依存していますからね。それが如何にも
ホンモノそっくりなのに、違うなんて恐ろしさはやはりハンパない。
トルコの双子富士山は私もぎゃああ”って泣きたいくらいコワいです…
こんなのあり得ないですよ〜〜。
私、昔、論文に(音楽テーマですよ。笑)リアリティとコミュニケ
ーションのことを書いたことがあって、やはりロボットの可能性に
触れましたが、現実にここまでやっている方がいるのを知って、
結構感動しました。
さて、今年はどこかで何かご一緒できますかね。
ホンモノの富士山、久々に見たくなりました♪

投稿: よこよこ | 2011.01.18 02:58

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