BUMP OF CHICKEN 『COSMONAUT』
遅くなりました。ようやく書きます。
なんで今日かと言いますと、「BUMPがドラえもん主題歌…ボーカル藤原が大ファン」というニュースがあったからです(友達の唄…いい曲ですね)。あっ、やべ、レビューしてない!と思い出した、いや思い直したのです。
そう、忘れていたのではなく、なんだろうなあ、ちょっと「感想」が出てこなかったのです、この1ヶ月。
バンプの場合、リリース間隔があきますし、音源以外の話題もあまりないので、一つ一つの記事がついつい重いものになりがちでした。ある意味それだけ期待度も高いということですね。
で、今回のニューアルバムが、その期待どおりだったかというと、これがなかなか微妙なのです。いや、いいとか悪いとか、好きとか嫌いとか、そういうレベルではなくて。
今までもそうだったわけですが、アルバム発売前に、何年かにわたって優れたシングルが発売され、そのたびに感心し、聞き込み、感情移入してくるじゃないですか。そして、そういうシングル(カップリングも含めて)がアルバムの半数近くを占める「ニューアルバム」が発売される。
これは、他のバンドでもそうなんですけどね。最近の日本の音楽界の傾向です。いや、最近ではないな。昔からの、ですね。アルバムからのシングルカットではなく、アルバムが半ベストになる。
だから、今回のアルバムも、アルバム先行型だったら、もう「これはすごい!」と純粋に思えたと思うんですね。せいぜい、1曲の先行シングルカットくらいの感じだったらなあ…。
もったいないような気もするんです。他のバンドでもそうなんですけれど、さっき言ったようにシングルをある種の「思い入れ」や他の事象との「共時的体験」として受容しているとですね、どうしてもアルバムで初めて聴く曲とのバランスが悪くなってしまうんですね。まさに「思い入れ」と「共時的体験」としてのバランス。
それで1ヶ月温めてみたわけです。何回もアルバムを聴くことによって、「差」を縮めて、そのバランスを取ろうとした。しかし、なかなかそれがうまく行かなかったんですよね。「差」は縮まるけれど、ゼロにはなりませんからね。
今までもいろいろな機会にそういう違和感を抱いてきたわけですが、どうして今回は特にそれを感じるのかなあ…と思ったら、やっぱり今回の藤原くんの歌が、今までとは変わってきていることがその原因のようです。
彼も30歳の壁を越えて、いわゆる「大人」になってきたということでしょう。音楽的にはより一層洗練されてきたと思います。実際、今回のアルバムで新しく採り入れられた「音楽的テクニック」をいくつか指摘することもできます。また、歌詞(詩)の世界観、スケールもより大きくなったように感じますね。
今まで彼の世界観を愛情をこめて「永遠の中二病」みたいに言ったこともありましたが(笑)、今回はちょっと違うイメージを抱きました。いや、もちろん、全ての芸術は「永遠の中二病」からしか生まれないものだと信じていますけれど、なんというか、ほら、中二病にもいろいろあるじゃないですか。ここにも書いたように(笑)。
私も今年47歳になりますが、いまだに「中二病」的なモノを持ち続けていますし、持ち続けようと思っています。しかし、たしかにそれはあの頃やあの頃とは「質」が大きく違ってきています。まあ当たり前ですね。そして、それとともに、同志や友人も変わってきました。
たとえばこのブログなんかも、私にとっては私のそうした壮大な妄想の現場(実験場)になっているわけですが、7年前とはその質も内容も変化していますし、読者も変ってきていますよね。
私のような凡人と天才藤原基央くんとを並べて語るのは申し訳ありませんけれど、私もまた30代にはそれまでとは明らかに違う世界観、自分観を持つようになりましたし、40代にはもっとドラスティックでドラマティックな変化がありました。
その傾向を一言で言うなら、やはり「他者意識」「世界意識」「宇宙意識」の拡張でしょう。ホンモノの「中二」が、他者に対して反抗することによって、相対的に「自己」と戦い、「自我」の変革を画策したのに対し、今度は「他者」自体の変革を願うようになるというか。
以前のバンプの歌には、「自己の共有による普遍性」という力がありました。藤原くん自身の「自己」との格闘が抽象的な言葉によって一般性を帯び、同世代の心に響いてきたと思います。私は全く同世代ではありませんから、どちらかというと「ノスタルジー」として共感していましたし、若者への(中二病への)応援という気持ちで聴いていましたが。
それが、今回のアルバムでは、より雄大なスケールになっているような気がします。「天体観測」と同様、宇宙へのまなざしがあるとしても、その実視界は大きく広がっていると感じます。すなわち、彼の持つ望遠鏡の接眼レンズの、見掛け視界や焦点距離が変化したのでしょう。
昔ながらのファンは、そこに何か物足りなさを感じるかもしれません。それは「もっと高倍率で木星の表面を観てみたい!」という思いかれしれませんし、「もっと叫びを聴きたい」という思いかもしれません。
そういう意味では、私と彼らの音楽や詩の世界とは常に距離があるわけで、いや、それは全てのファンにとって同じでしょうが、その変化のタイミングのズレによって、ある種の「違和感」が生じるのはしかたのないことです。
いつも書いているように、変化(気づき)のタイミングの早さ、すなわち私たちの一歩先を行くのが「天才」の証であり、宿命なのですから。
だから、このアルバムは、多くのファンにとって、真の理解、共感までに時間がかかる作品かもしれません。より年輩の私でさえそう予感するのですから、若い人たち、彼らと同世代の人たちには、ある意味厳しいけれども、しかし価値ある内容なのかもしれません。
そうして長い時間、いや時を超えて人に気づきを与え、人を導くものこそ、私は真の名盤であると思います。やはり、彼らはホンモノのアーティストですね。
ちなみに、私、今回のシークレット・トラック、けっこう好きです(笑)。
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コメント
先生今晩はー。
毎日寒いですね。富士吉田はもっと寒いんだろうな!
先生のBUMP アルバムの話待ってましたよ笑!
先生の言わんとしてること漠然とですが分かったような気がします。
そして、彼らの音楽は
色んな時間を積み重ねて、基本は変わらないけど、大きく、緩やかに広がっていってるような気がします。
BUMP OF CHICKENに出会って10年くらいたちますが、
私もこの十年で以前聞いていた時とはまた違うとらえかたができるようになったような。笑
こんな私でも、変わらないけど、何かを得てるのかななーと思うのでした。
投稿: ミキ | 2011.01.22 21:11
はじめまして、こんばんは。
毎日多種多様な興味深い記事をありがとうございます。
私はBUMP OF CHICKENが好きなので、こちらでたくさんの記事と出会えてとても嬉しく思っていました。
『COSMONAUT』を蘊恥庵庵主さんはどんな風に表現してくれるのだろうかと楽しみにしていたので、今日この記事を読むことが出来てとても嬉しかったです。
自分では感動してもなぜ感動するのかわからなかったことが、不二草紙の記事を読んで共感することで形になるような感覚があり、そのことが大事な宝物です。
寒い日々が続きますので、どうぞお体にお気をつけ下さい。
蘊恥庵庵主さんの道しるべのような記事をこれからも楽しみに待っています。
投稿: いな | 2011.01.22 23:03
庵主様、こんばんは。
レビュー、待ってました!お忙しい中、ありがとうございます。
「他者意識」による変化・・・おっしゃっること、分かる気がします。ただ、昔からそうですが、藤原さんの場合、「他者を意識すること」それ自体も自己の意識でしかないと分かった上で歌っているような気がします。だから、どこまで行っても自問自答のような印象を受けます。その自問自答が、誰かの胸に響くことによって、それぞれの人がそれぞれに思う他問他答の歌になっているのかなと。そんな日本語ないですよね(笑)。
だから、今回のアルバム、私は、庵主様がおっしゃるように変わったなとも思ったし、全然変わってないなとも思いました。言葉にするのは本当に難しいです。ただ、これからの新しい始まりを感じる、現時点での最高傑作だと思いました。
それと、本当に日本のアルバムはシングル曲が多すぎますよね。海外のようにアルバムからリカットして、主にアルバムを売っていくという方法に変えてもいいんじゃないかと思います。そうすれば、アルバム自体も作品としての評価が受けやすくなりますし、シングルを作らなきゃ!というプレッシャーからも解放されるように思います。
それでは、長々と失礼致しました。寒さもますます厳しくなりますので、お風邪など召されませんよう、どうぞご自愛下さいませ。
ちなみに、、、私も隠しトラックで爆笑してしまいました(笑)。
投稿: おもち | 2011.01.23 22:52
庵主さん、お待ちしておりました。
アルバム曲とシングル曲の差、分かります。「orbital period」のときはそれを埋めるのに2年以上かかりました。(まだ埋めきれてないのもあったり)日本はシングル優先主義なので、これは致し方ないのでしょうね。
私はバンプの1個下なので、藤くんの最近の世界観はすごく精度のいいナビのようです。三十路になっちゃうと、多かれ少なかれ今までの人生振り替えるし、親の病気の心配もするし、置いてきた夢とも決着をつけようとするし…
ああ、こうやって諸々を乗り越えたのか、とゆーお手本のような。父親の背中を見て育つ子供のような気持ちです。(笑)
投稿: mio | 2011.01.24 11:17
こんにちは
いつも温かい批評記事読ませていただいています。
BUMPは私が初めて真面目に音楽を聴くきっかけとなったバンドであり
人生の目標?のような人たちであります(笑)
庵主様の言うように藤原さんの変化というのは感じましたが
むしろ音楽テクニック的に成長したなと感じたので
それほど違和感はなかったです
感想といたしましては、30の壁を越えて落ち着いた、ということよりむしろ、
かなり意欲的に新しい要素を取り込んでいると思いました。
ゴスペル調とか民族音楽とか。かなりアンサンブルに凝った曲もあるような……
ヨーロッパ音楽の影響を強く受けている、のでしょうか?
そこらへん詳しく知りたいのですが何分音楽知識的なことはまだまだ不勉強ですので…
出来ればご教授願いますm(_ _)m
投稿: けい | 2013.03.16 18:08