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2011.01.16

婆さんと猫…(2011 センター試験 国語)

20110117_94938 ンター試験国語、小説は加藤幸子さん「海辺暮らし」からの出題でした。
 昨日、評論の正解に異議を申し立てましたが、こちら小説は問いに苦言を呈したいと思います。
 ただ、前提としてですね、以前も書いたように、センター試験の国語には小説の問題を出すべきではないと思っています。
 小説という「文学」における主観のあり方と、客観テストの性質は、やはり相容れないからです。もちろん、情報としての、テクストとしての小説を客観的に処理するという出題のしかたも可能だと思いますが、それは評論の問題で充分ですから。
 ただ、そうしますとですね、一般的な(私は違いますが)国語の授業のあり方、すなわち「文学鑑賞」と、大学入試の国語とはどんどん乖離していきますね。
 私はいろんな研修会などで言わせていただいているとおり、「文学鑑賞」は「芸術」科目でやるべきだと真剣に考えています。「美術」「音楽」「文学」とね。
 では、「国語」では何をやるか…それはもうお分かりでしょう。ちゃんと言語の勉強をすべきだということです。戦後国語教育の問題を語り出すとキリがないので、またいつか。
 で、今回の「海辺暮らし」です。いやあ、なかなか面白い作品でしたね。それこそ「文学」として自分なりの「鑑賞」をしたかったですねえ。そう、それでですね、結局今回も「解釈」や「鑑賞」に関わる問題があって、それが問題なわけです。
 ずばり、問5と問6。予備校さんなんかも「根拠が薄い」と評している問題です。これら、もちろん受験テクニックとしての消去法で臨めば(すなわち、本質的な「問題」には目をつぶり、自己を滅却して、ただ勝ちに行けば)、正解することは難しくないでしょう。
 しかし、それがはたして「教育」の一環としての「試験」のあり方なのか、非常に疑問であります。
 あの本文の後半部分は、まさに「文学」的で文章であり、いわば散文詩に近い文体と表現をとっています。だからこそ、心にしみる名文だと思いますし、理屈ではなく純粋に味わいたいところなんですよね。
 たとえば私だったら、あの1行あけのあとは、ほとんど幻想に近いととらえたいわけです。夢ですね。特に「おいで」という声の後は、実景の描写じゃないでしょう。
 たしかに「死」の影が感じられる表現が並んでいますから、まあ問5はギリギリ良しとしましょう。私は私の感性に従って正解できました。ただ、それはある意味たまたまのことであって、実際には「解釈」は無限にあると思いますから、客観テストとしてふさわしいかは疑問です。
 問6の一つの解答3は情報処理的にも導けると思いますが、5はどうでしょうねえ。これを積極的に選択するのは無理でしょう。
 私なんか、先ほど書いたように、あの部分自体が幻想(夢)の描写なので、単純に「(ルルではない)猫の鳴き声が聞こえた」→「よく見るとルルだった」→「行ってみたらやっぱりルルではない知らない猫だった」という、いかにも夢にはよくありそうな展開と読んでしまいました(変ですかね?)。
 最初から「お治婆さんとルルとの心理的距離」とは無関係な表現とも取れますし、あるいはそういう幻想の中に両者の心理的距離が象徴されているともとらえられるわけで、もう問題としての「客観性」なんていうのは到底存在できないことになってしまいます。
 だから、そんなモノを問題にするなと言うのです。それで受験生の人生を左右するなと。
 まあそれ以前に、あれだけのテクスト(情報)では、「解釈」や「鑑賞」すら難しいですね。全文何度も読んだ上で作問している作成委員のセンセーと、ほんの一部だけを読まされている受験生との間で、いわゆる「会話」が成り立つはずがありません。あまりに条件が違いすぎます。
 ですから、もし小説の問題を出すならば、短編を丸ごと出してほしいし、それが無理だったら、リード文をもっと詳細で的確なものにしてほしい。そう思います。
 と、まあこんな感じですね。受験生の立場に立てば、こうしてある意味あきれてしまいますし、しかし一方で、作問者の立場になれば、平均点を6割にするためには致し方ない手段なのかなと、少し同情する気持ちもわいてきます。
 非常に難しいところですね。ちなみに私はもうここ何十年も、小説で問題を作っていません。私にはそんな勇気はありません。
 ここまで書いてきたような「国語教育」の問題について、もっと真剣に「国語教師」たちは考えなければならないでしょう。もっと話し合わなければ。
 昨年のK教授と恋路大将にやられた!?の記事では、多少国語教育界に波風を立てることができました。昨日の記事にはいまだなんの反応もなし。今日の記事についてはどうでしょう。
 
「国語」問題・解答

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コメント

はじめまして、今年センターを受けたものです。
今回の小説の問5と問6は正直納得ができません。
ほんとに根拠薄弱だと思います。
問5のほうはあってましたが、ほんとにたまたまって感じです。

小説なんていろいろ解釈できますよね?それを問題として出すのはほんとやめて欲しい。出すとしてもちゃんとした根拠がある問題にして欲しいです。
そうじゃないとただの運ゲーになっちゃいます。
医学部狙いとかで9割欲しい人にとって、こういう問題で8点とか失うのはほんとにかわいそうです。

センターはマーク式だから、分かってなくてもたまたま正解することがある。これってどうなのかなー・・
と思う今日この頃。

ちなみに自分も評論の問3は3を選んで撃沈しました(笑)

投稿: kk | 2011.01.17 23:16

色々疑問を感じ、ここに辿りつきました。

問5ですが、消去法で一応正解を選びましたが、最後まで悩みました。言われてみればそうだ、とは思いますけど。

問6の3はまぁ選べますが、5・・・。消去法でやっていけば残るのは5だけではありますが・・・・・

常々私も小説をセンター試験に出すのに疑問を持ってました。もっといえば、テストにそぐわないとも。

折角今年はケチつかない問題、と思いきや今年は小説がコレ・・・全てまともにしてしまうと平均点が上がってしまい大変なのでしょうが、なんとかならないのでしょうかね。

投稿: ふ | 2011.01.19 16:20

今年センター試験を受けた者です。
俺はそうは思いませんけど。
しっかり読めば後半部分でルルの様子がおかしくなり、婆さんが違和感を覚えたこと。
そして前半部分から語られる公害が酷く、汚染が進んだ海という情報+後半の情景の描写から何か良くないイメージを抱ければ解答にはたどり着けると思いますがね。


センター過去問の小説を読み、その中には最初答に納得いかないものもありましたが、よく読めば解答通りだなって思いましたよ。
俺はセンター試験から小説を外すのは大反対ですね。
点数なんかよりも、その小説から学べることがいっぱいありますから。

投稿: にひ | 2011.01.19 18:43

センターの国語の問題に以前から疑問を持っていて、ここにたどり着きました。受験生の母です。
センターの国語の試験に専門家でも答えが分かれるような問題を出すのはほんとに問題だと思います。

センターの問題に対する傾向対策と慣れ、みたいなものでしかたどり着けない正解は、出題に適さないと思います。(小説。評論に関してです。)
しかもそれは大きな得点差となって受験生を泣かせることになるからです。日本語の能力判定とは乖離している問と回答は、ある意味では国語や文学での解釈や自由な思考自体を阻害しているとさえ感じます。
答えありきだからそれに近づくべく訓練する勉強って、歪んでいませんか?
国語が得意で言語に対する豊かな感性を持った生徒がばっさり切られて、対策上手な子供がいい成績を上げられる仕組みに憤慨をおぼえます。
ここのサイトで述べられていたとおりです。センターの国語の問題を作った人ってどんな感覚の持ち主なのか、そして全国の若者にこんな仕組みを押しつけている教育界の人たちに腹が立って仕方ありません。
この問題を自分でやってみて、国語教育関係者は何とも感じないのでしょうか?何も言わないのでしょうか?教室で教えている国語が活かされていますか?

慶応大学など来年から(?)センター利用を廃止するとコメントが出てました。当然でしょう。その傾向は今後強まるとも。
こんなTV番組のクイズかなぞなぞのようにも思える精度の問題でいい学生を見分けるのは難しいでしょう。
それこそ『センター対策』バリバリの子ってどんな人間だろうって思えます。
特に国語教育関係の方(実は私も教育学部の国語専攻でした*昔)声を上げて下さい。ヘンな問題出すなって。
なぜ国語だけねじ曲がっているのか 大変疑問です。
…出題するかたたちって・・・そのあたりのかたの国語に対する考え方に問題ありませんか?

小説家や文学者、大学の先生にセンター国語解いてもらって欲しいです。そしてコメント欲しいですね!


投稿: さふらん | 2011.01.23 18:01

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