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2010.12.09

あの素晴しい曲をもう一度〜フォークからJポップまで』 富澤一誠 (新潮新書)

41b38ebemul_sl500_ ずはどうでもいい話から。
 今日この本を繰っていたら、窓口に郵便屋さんが荷物を持ってきました。なにやらアヤシイ風貌の男だなと思って無視していましたら(笑)、「先生!」といきなり声をかけられました。よく見ると、10年以上前に卒業させた男でした。
 まさに卒業させた男。どうにもならないグータラ男だったので、「お前はアメリカででも修行してこい!」とテキトーに進路指導したら(笑)、本当に向こうで学生になり、結果として4年間アメリカで一人暮らしをして帰ってきました。
 それで、英語がペラペラになったかというと、全然そんなこともなく、向こうでもなんとなくテキトーに必要なだけ英語を使い、なんも考えずに、日本にいる時と同じようにダラダラ過ごしていたようです(笑)。もちろん、今はもう英語なんて全部忘れて手紙を配達して歩いています。
 それはそれでものすごくスゴイことだと思います。つまり、彼はとんでもなく「図太い」のです。どこでもテキトーに生きていける、ストレスをストレスとも感じない「強さ」を持っているんです。私はそんな彼が好きですし、ちょっと尊敬すらしています。
 実は、彼、フジファブリックの志村正彦くんと、中学時代クラスメイトだったのですが、ある意味、いや全ての意味において、二人は対照的かもしれません。風貌のみならず生き方も正反対…。
 彼が受付にやってきた時、私はちょうどこの本のこういうくだりを読んでいました。
「(彼)の死について、私はこんなふうに考えています。(彼)は全力で走って英雄となりました…プレッシャーと、シンガー・ソングライターの宿命ともいうべき、自分の身を削っての曲作りの間で煮詰まってしまったのです…真面目すぎたために、自分の生きざまを歌にするたびに我が身を細らせなければならなかったのです。(彼)はあまりにも自分の人生に対して生真面目すぎたようです」
 これはそのまま、志村くんに当てはまりますね。かの郵便屋さんには全く当てはまりません(笑)。
 さて、ここでの(彼)とは誰のことでしょうか。
 その答えは「尾崎豊」です。
 著者である富澤さんは、尾崎豊を発掘した張本人です。オーディションの審査員だった富澤さんは、尾崎豊の歌に吉田拓郎に対するのと同様の衝撃を受け、必ずやかけがえのないミュージシャンになると予感したそうです。
 そうそう、志村くんも、ちゃんと尾崎豊のアルバムを聴いていたんですよ。なんとなく結びつかないような気もしますが、真面目で孤独な天才どうし何か惹かれるものがあったのかもしれません。
 さてさて、この本、まさにフォークからJポップまでという感じで、日本のポピュラー音楽史の一側面をしっかり俯瞰できる良書であります。一側面というのは、もちろん、その他の側面があるということですね。たとえば演歌やテクノやダンス・ミュージックやら。もちろん、そうした音楽ジャンルの話も出てきますが、あくまで「一側面」との関連においてです。
 いやあ、実は私、この「一側面」についてはですねえ、あんまり詳しくなかったのですよ。それがちょっとコンプレックスでもあった。
 私の音楽歴はちょっと特殊でして、けっこう大事な部分が抜けてるんですよね。たとえば「フォーク」。これは決定的に抜けています。「演歌」もかなり抜けていたのですが、カミさんの影響で、最近では演奏までするようになりました。フォークも大学時代、フォークソングサークルのお手伝いでストリングスを担当したりしてましたが、あまり好意的に聴いていなかったんですよ。
 私の音楽の目覚めは「ビートルズ」でして、どちらかというと洋楽の方に走ってしまった。ま、そっちもかなり大事なところが抜けてるんですけどね。
 でも、最近になって、いろいろ演奏する機会も増えたりして、やっぱりジャンルを越えていいものはいい!と感じられるようになってきましてね、あらためてこうして復習したり、勉強したりする楽しさを覚えてきたのです。
 ですから、この本は非常に刺激的でした。なるほど!と思うことばかり。そして、今、なんだかんだよく聴きこんでいるJロックたち、フジファブリックやレミオロメンやバンプなどをはじめとする、今どきの若者の日本語ロックが、まさにこうした先人たちの残した「根っこ」、すなわちフォークとロックと歌謡曲と演歌とその他もろもろの葛藤やら格闘やら融合やらの上に咲いた「花」であることを再確認したのです。
 ある意味、私なんかよりも、彼ら若者の方がしっかりルーツの部分を理解し消化している。そして、さらに新しい根っこを作り続けている。そんなふうに感じました。社会へのプロテスト、内省、ファッション、コマーシャル…。
 今、音楽シーンは大変な変革期を迎えています。CDが売れず、ダウンロードが象徴するように、音楽の断片化が進んでいます。しかし、だからこそ富澤さんの言う本当の「歌力(うたぢから)」が試されている、あるいはそれを欲している、またはそれが発揮できる時代になったとも言えるかもしれません。
 とにかく、現場で本物やニセモノをたくさん見て、聴いていらっしゃったプロによる、素晴らしい史書であると思います。巻末の名曲ガイド50も秀逸。まずはこの50曲をしっかり聴いて、また演奏してみたいと思いました。
 最近私は「短歌」をやっていますが、日本の「歌」の伝統には、必ず優れたメロディーとリズムが流れていると感じています。音楽と言葉の昇華、止揚こそ「歌力」の原点なのでしょう。「モノの音(ね)」と「コトの葉」の幸福なせめぎ合いの中に、私たちは生きる喜びや哀しみを聴き取るのです。
 
Amazon あの素晴しい曲をもう一度


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コメント

先生こんばんは。
いろんな音楽に精通している先生はすごいですよ!いつも感心しきりです。
私はほんと〜に小さいときから、はまったらそこ一筋なので それ以外は聴かなくなります。
聴いても、耳も気持ちもそっちにいかないんです。過去 はまった曲は今でも大好きです。
今 音楽の全ての出会いの元は中3でユニコーンに出逢った事です。
めぐりめぐってフジファブリックにたどり着きました。
すみません レミオロメン聴いたことがありません。家では子供達が寝静まるとスペシャやM-ONを見てるので、よく特集もされてますが…耳がそちらにいかないんです。
オールジャンル聴ける、耳を傾ける事ができることはすごいですよ。
私の場合ミーハー的要素が濃いので、アルバムダウンロードとか考えられません!
やはり歌詞カードじっくり読んで写真をしっかり見詰めたいです。

古いんですかね〜(>_<)

投稿: さお | 2010.12.10 22:54

前略  薀恥庵御亭主  様

御亭主様の御人徳によって
素晴らしい「卒業生」様方
が輩出されておられますね。

愚僧が若いころ学んだ事に

「坊主が財産を捨てる
 ことはそんなに
 難しいことではないぞ」

「坊主が色欲を捨てる
 こともそんなに
 難しいことではないぞ」

「坊主が出世を捨てる
 こともそんなに
 難しいことではない。」

「しかしなーお前よ・・・
 善人になることを
 すてることは
 この世の中で
 一番 難しいぞ・・・
 それを忘れるなよ」

もう30年以上前の・・・
思い出です。苦笑

当然・・・
これは「善人ぶる」
ということですね。
愚僧 今でも・・・
「善人」ぶってます。笑

その「教え子」様は・・・
本物の「達人」です。
それに「嘘」はありません。

善人おじさん      拝

投稿: 合唱おじさん | 2010.12.11 07:47

庵主様、どうもこんにちは
庵主様の言う「今どきの若者の日本語ロック」のおかげで僕の人生は180度変わったと言っても過言ではありません。
「生まれてきた意味」や「縁」を感じずにはいられない日々です。
微力ながら庵主様を応援していけたらと思っています。
頑張ってください!!!!!!

投稿: R.W. | 2010.12.11 16:15

こんばんは!
すっかり寒いですねー。
体調崩さずお元気にされてますか?


音楽のことと言えば、私もさおさんと一緒で、ずっと同じものを聴き続けるので……笑
そして私の始まりはBUMP OF CHICKEN、なんです
それこそ学生時代から、今まで長い間私を支えてくれたバーソナルな音楽です。
(志村くんつながりでこのブログを見つけたとき、バンプの話もあがっていて、先生には不思議な縁を感じたのを覚えてます。笑)

そして次の大きな出会いはフジファブリック!本当に大きな出会いです。これも生涯変わることはないでしょう。志村くんの言葉をお借りするなら、そう。人生でかけがえのないものであり続けます。
(ちなみに私はダイちゃんと同郷だったりします笑。)

音楽は本当に出会い、そして繋がって続いていくんだなー…なんて思いました。
先生のお話は私にとって
クラシック、洋楽の話は特に世界を広げていただける大切なものです。ありがとうございます!

そしてまるで教科書で勉強会を教えてもらってるみたいで、大人になった今本当に、心地好いのです!

投稿: ミキ | 2010.12.11 17:17

みなさんコメントありがとうございます。
歌は世につれ、世は歌につれ。
本当に歌は素晴らしい。
特に昭和の歌は熱い!
そしてその息吹は今でもいろいろなところに生きていますね!
もちろんフジファブリックにもたっぷり。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.12.17 18:26

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