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2010.12.20

富士変幻その3

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                                                                                                                    富士にたのまう。突然それを思ひついた。おい、こいつらを、よろしく頼むぜ、そんな気持で振り仰げば、寒空のなか、のつそり突つ立つてゐる富士山、そのときの富士はまるで、どてら姿に、ふところ手して傲然とかまへてゐる大親分のやうにさへ見えたのである…                「太宰治 富嶽百景より」

 というわけで、本日も忙しく、またかなり精神的に疲れているので(笑)、富士によろしく頼みたいと思います。ま、私の無駄に長い戯れ言よりも、富士山の「単一表現」の方が優れているし、実際評判がいいみたいですね。そうそう、その「単一表現」の部分も引用しておきましょう。

 ねるまへに、部屋のカーテンをそつとあけて硝子窓越しに富士を見る。月の在る夜は富士が青白く、水の精みたいな姿で立つてゐる。私は溜息をつく。ああ、富士が見える。星が大きい。あしたは、お天気だな、とそれだけが、幽かに生きてゐる喜びで、さうしてまた、そつとカーテンをしめて、そのまま寝るのであるが、あした、天気だからとて、別段この身には、なんといふこともないのに、と思へば、をかしく、ひとりで蒲団の中で苦笑するのだ。くるしいのである。仕事が、――純粋に運筆することの、その苦しさよりも、いや、運筆はかへつて私の楽しみでさへあるのだが、そのことではなく、私の世界観、芸術といふもの、あすの文学といふもの、謂はば、新しさといふもの、私はそれらに就いて、未だ愚図愚図、思ひ悩み、誇張ではなしに、身悶えしてゐた。  素朴な、自然のもの、従つて簡潔な鮮明なもの、そいつをさつと一挙動で掴まへて、そのままに紙にうつしとること、それより他には無いと思ひ、さう思ふときには、眼前の富士の姿も、別な意味をもつて目にうつる。この姿は、この表現は、結局、私の考へてゐる「単一表現」の美しさなのかも知れない、と少し富士に妥協しかけて、けれどもやはりどこかこの富士の、あまりにも棒状の素朴には閉口して居るところもあり、これがいいなら、ほていさまの置物だつていい筈だ、ほていさまの置物は、どうにも我慢できない、あんなもの、とても、いい表現とは思へない、この富士の姿も、やはりどこか間違つてゐる、これは違ふ、と再び思ひまどふのである。


 これまた名文ですね。というか、全ての表現活動の本質をとらえていて強い。ここにも月夜富士が登場します。水の精かあ…うまい、にくい。
 今日も月夜富士がきれいでしたよ。明日皆既月食、すなわち満月ですからね。昨日書いたように、冬の太陽の南中高度は低い。冬至に近い今頃はたった31度。思っている以上に低いのです。
 それに対して冬至の頃の月の南中高度は、夏至の頃の太陽の南中高度に近くなります。80度くらい。80度と言えば、もうほとんど天頂です。ですから、冬の月夜富士は美しいのです。
 しかし、私の安物デジカメでは、なかなかその美しい風景をとらえることができません。以前、天体写真をよく撮っていた頃は、毎年の年賀状を、富士山と星をテーマにしていましたので、夜の富士山の写真をたくさん撮りましたが。もちろん完全機械式の一眼レフで。最近、天体写真撮ってないなあ…。ああいう時間の過ごし方、撮影の時も、現像の時も、あの「待つ」感覚なあ…。
 ま、そんな個人的な感慨はいいとして、今日は月夜富士とは全然関係ない、笠雲の動画を見ていただきましょう。
 富士山に笠雲がかかると、まあほとんどの場合が天気が崩れます。これは本当に確率が高い。地元の人たちはみんな経験的に信じています。実際、統計的にも70%を超えるそうです。
 今日は朝方、UFOのような吊るし雲も出ていましたので、より雨が降る確率が高かった。笠雲と吊るし雲の両方が出た時は、降水確率90%です。
 しかし、今日は雨が降りませんでした。これは実に珍しいことですね。天気予報でも夕方は雨という感じだったのですが、そちらもはずれました。
 私たち富士山麓の人間にとっては、そんなふうに身近な笠雲、一見動いていないように見えますけれど、実はものすごい勢いで動いているのです。形がほとんど変わらないようでいて、よく見ると常に新陳代謝が行われていることがわかります。今日は、いつものデジカメで、その動画を撮ってみましたので、ご覧下さい。まさに生きている自然という感じです。実にダイナミック。あの中、すなわち山頂は大変だろうなあ…。ものすごい霧なのか、吹雪なのか。風速何十メートルでしょう。では、どうぞ。
 笠雲の動き

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コメント

ダイナミックです!!
笠雲がかかった富士の写真は見たことがありますが,動画は初めてです。
いつも素晴らしい富士の姿を見せてくださり,ありがとうございます。

太宰の「富嶽百景」,読みました。
『富士にたのまう。』この一文がとても印象的でした。

先生,かなりお疲れのご様子。そちらはずいぶんと寒そうですので,お大事になさってください。

投稿: 松原恵子 | 2010.12.21 15:42

初めてコメントさせていただきます。

吉田にはほぼ毎月通ってます。

富士山を見るととても救われる気がします。

太宰も好きで読んでいましたが、また再読したくな

りました。もう3日で大切な人の一周忌があります。

今を生きる事に専念しようと思います。

投稿: fabbox | 2010.12.21 21:12

松原さん、fabboxさん、コメントありがとうございます。
お礼が遅くなってすみません!
1年分の疲れがたまってきました。
ま、それだけちゃんと生きてきたってことかな…なんて思ってます。
毎日富士山に励まされてやってます。
富士山に感謝です。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.12.28 14:17

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