『BSベストスポーツ増刊号 イチロー2244安打 全部見せます』 (NHK BS1)
ここ数日の疲れがどっと出ました。いろいろやることがありましたが、基本家でぐうたらしていました。そのぐうたらのBGMならぬBGVがこれ。
まあ、NHKらしいというかなんというか、とんでもない番組ですね。そしてこれが番組になってしまうからイチローというコンテンツはすごい。いや、イチロー自身と言うよりも、今回はイチローのバッティング(ヒット)という作品ですかね。まさに職人芸を見せつけられました。
延々と7時間にわたる放送。いったいいつ終わるのか。とにかく淡々とヒットのシーンが積み重ねられていきます。これだけ観ていれば、2244打数2244安打打率10割ですよ。
思わず「うまい!」と何度も叫んでしまいました。まあイチローにしてみれば、シロウトに「うまい」とか言われたくなんでしょうが。次元が違いますね。昨日もプロのプレー(やや手抜きでしたが)を観ましたけれど、やっぱりプロの中でもイチローは特別です。
音楽で言えば「ヴィルトゥオーソ」ですよ。超絶技巧の上にある「徳」。つまり、超絶技巧ではなくて、技巧を超絶した何かを備えているんですよね、彼は。
この前、ちょうど一流の思考法を読んだじゃないですか。あの内容とも関連させながら、彼の所作というか、「型」というか、たたずまいというかを、ぼんやり鑑賞させてもらいました。
うむ、やっぱり、これは「禅」ですね。
スポーツは全て「他者性」との闘いです。中でも野球は、より流動的かつ制御しにくい他者との闘いが多くなります。自分は狭い枠の中に閉じこめられ、ある種不自由の身の中から、ああした自由を勝ち得なければなりません。
野球は偶然性のスポーツとも言われます。ですから実力どおりの結果が出ない面白さがあります。奇跡が起きやすいのですね。しかし、その中で、イチローのように3割以上の確率で自らの思い通りの結果を出すためには、これはもう、禅的な発想や所作を武器にしなければどうしようもありません。
つまり、他者に合わせていくのです。相手と一体化するために、自己を捨てるのです。彼の「型」はそのための技術であるように見えました。
禅においても、あらゆる動作に「型」があり、また究極のテクニックであるべき「座禅」は、様々な動きや思いさえも排除されたものです。
ワタクシ流に言うと、「コトを窮めてモノに至る」というやつです。
自らの「カタ=コト」を発見し、そこに自分を沈め込んでいくと、そこには広大な「自己の補集合」たる他者が広がっている。そういう境地です。「モノにする」、「モノになる」はこれです。
素直なバッティングとか、球に逆らわないとか、まあ言うのは簡単ですよ。しかし、それを実際に現実化するのは、とんでもない修練、それも肉体と精神の両方の修練が必要です。それが出来る稀有な人間がイチローなのです。
いつかも書きましたが、たとえば音楽においても、いろいろなジャンルでヴィルトゥオーソと言われる人、天才と言われる人、神と称される人の弾き方は、正直「変」です。ジャズ界でちょっと思い出すだけでも、ジャンゴ・ラインハルト、ステファン・グラッペリ、キース・ジャレット、パット・メセニー…、みんなどうやって弾いているのか分からないし、実際見た目が「変」ですね。
イチローだってそうです。あのバッティング・フォームはおかしいですよ。もちろん、王さんや長嶋さんだってそう。誰もマネできません。
現代はそういう「変」がなかなか許されない時代です。おそらく教育が悪いのでしょう。なんでも、画一化、平均化、マニュアル化してます、いやさせてますからね。そういう中で、イチローがああいう自分の「型」を自ら作り出し、そして日々進化させていることはおそるべきことです。
最近、中学の職員室では、「最近の子どもは指示待ち、答待ちで、自分で考えることをしない」と、よく嘆き合っています。どうすればいいのか。本当に悩ましいところです。
自分もかなり変な人間だとは思いますが、所詮三流なので、単なる「変わり者」「お変人」で終わってしまっています。天才になるには、才能も努力も全く足りないのが、本当に悔しいですし、残念です。
まあ、でも、こうやって「天才」たちに日々触れることができるのは、この現代の日本に生まれたからですよね。それは本当にありがたいことであり、感謝すべきことであると思います。
それにしても、とんでもない7時間でありました。イチロー自身はこれを観るのだろうか。彼自身の感想を聴きたいですね。きっと、また禅の高僧みたいな「変な言葉」を発するのでしょう(笑)。
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コメント
えっ!こんな面白そうな番組あったんですか!?
ぜひ保存したい・・
BSなら再放送ありそうですね
んっ?7時間??簡単に再放送しそうもないなあ・・・
投稿: うどん | 2010.11.22 19:03
うどんさん、お久しぶりです。
すごい番組でしたよ。
再放送するにしても7時間ですからねえ。
BGMがずっと70年代80年代の洋楽だったのも良かったです。
そうそう、おととい「角石」の阿部養助さんから電話があって、どうも春に共演できそうです!
夢が叶います。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.11.23 13:08
おお!そうですか
ひさとし(ひさよしかもしれない・・疎遠なもんで)兄さんのいとこがよろしく言ってたとお伝え・・・
いや、お伝えしなくていいっす
恥ずかしい
投稿: うどん | 2010.11.24 02:12
うどんさん、話しときますよ。
というか、昨日電話来たのに言うのを忘れてました!
喜ぶと思いますよ。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.11.26 17:22