『ACACIA』 辻仁成監督・アントニオ猪木主演作品
まず一言。映画として期待して観るとがっかりするかもしれません。
ただ、やっぱり猪木さんの存在感といいますか、演技を超えた演技といいますか、いや、演技になっていない演技は素晴らしい。生身の人間を見せる、ある種ドキュメンタリーだと思えば、なかなか興味深い作品です。
つまり、アントニオ猪木は、たとえ初めて映画に主演したとしても、やっぱりいつもどおりなのです。猪木は猪木でしかない。プロレスラーはプロレスラーでしかない。
もちろん、この作品では、何度も登場する裁縫シーンに象徴されるように、闘う男とは対極にある姿が描写されていますけれども、それもおそらくは私たちの知らない猪木さんの真の姿の一つなのでしょう。全く違和感がないどころか、辻さんが意図したであろう「効果」すらも感じられませんでした。おそるべし。
もう一度映画としてのこの作品に苦言を呈するなら、こんなことが言えるかもしれません。小説を書いた作家本人がその作品を映画化するのは危険だ。
たぶん、この作品の原作である小説は面白いんでしょうね。感動するでしょうし、考えさせられる内容だと思います。設定やストーリー、また、心の壁を象徴する「腹話術」や「覆面」の効果も高いと思います。
しかし、それを作家自身が映像化してしまうと、なんでこういうふうになってしまうのでしょうか。これは実に難しい問題です。
脚本ならいいのです。小説だとダメなのです。イメージがあまりに固定的になるからでしょうか。あるいは逆で、作家の、実は茫洋とした脳内イメージが、リアルに表現しようと思えば思うほど、ニセモノの光を帯びてしまうのでしょうか。
いずれにせよ、どこか白々しく、わざとらしく、不自然なほどに予定調和的な感じがしました。ある種、聖書のようなウソ臭さを感じる作品でした。そう、猪木のいう受難の神の物語としては秀逸だったのかもしれませんね。聖書は小説でも映画でもありません。
普通、映画の脚本は、もともとはプロットしかなく、たとえばロケハンしながら、他者と交流しながら「言葉」や「ストーリー」が紡ぎあげられていきます。小説は、作家個人の中でもうすでにそれが一度完結しているわけで、それを他者が監督して映画化するのならまだしも、作家本人が監督すると、そういった映画本来の他者性がマイナス方向に働いてしまうのではないでしょうか。難しいですね。
あとは、やはり猪木さんが「強すぎた」のでしょう。昔プロレスラーで今はただの老人という設定としては、リアルな猪木さんはあまりに強すぎた。デビュー50周年を迎え、ますます元気で、プロレス界に影響を与え続け、いや、政治の世界でもいまだに影響力ありますね、そんな人が、公団住宅で孤独に年金生活する老人を演ずるのは、ちょっと無理があったのかも。
プロレスラーの哀しみ、すなわち男たちの孤独で不器用な戦いを表現した映画としては、レスラーの日本版だと言えなくもないかもしれません。家族、子どもと関係がテーマですしね。しかし、映画としてのレベルはかなり差があると言わざるを得ません。
もう一度両者を比較鑑賞してみたいと思います。何が違うのか。
それにしても函館の風景はいいですねえ。味がありますねえ。風景は猪木さんと伍していました。
それから辻監督おすすめの猪木さんの男泣きシーン、たしかに良かった。声にならない慟哭。あれも演技じゃないんだろうなあ…。あと、やっぱりプロレスの動きを見せるシーン。ホンモノの凄み、往年を彷彿とさせる「型」にしびれました。
猪木さんのデビュー50周年興行、12月3日のIGF両国国技館大会、宮戸GMからもお誘いをいただきましたが、残念ながら中学の説明会の日でして行くことができません。自分の教員デビュー25周年(くらい?)イベントです(笑)。こっちはこっちで「闘魂」を見せようと思っていますよ。闘魂タオル持参で頑張ります!
それから、この映画を観て痛感したこと。やっぱり今の子どもたちにはプロレスが足りない!親子の心と体の交流が足りない!「プロレス教育サミット」計画を本気で推進したいと思いました。来年は動きます!
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