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2010.10.06

フジファブリック 『赤黄色の金木犀』

Photo_10_06_10_59_59 高校に用事があって中学の外に出ましたら、突然金木犀の香りに包まれました。昨日までは全く気づきませんでしたから、今日は富士吉田での開花日だったのでしょう。  いったいどこから香ってくるのだろうと、鼻をピクピクさせながら路地裏を少し歩くと、そこはまさにフジファブリックの志村正彦くんの生まれ育った場所。  もしこの木が昔からあったのなら、彼もこの香りをかいだに違いありません。なぜなら、その金木犀は彼の部屋のすぐ目の前に立っているからです。  彼は、窓を開けて富士山を眺めながら、この金木犀の香りに何を思ったのでしょうか。  その答えはこの名曲の中にあります。「赤黄色の金木犀」。

 私を含めほとんどの人が「ああ、いい香りだな」とうっとりするこの景色に、この感情を乗せた志村くんは、やはり天才詩人でした。  あらためて歌詞を読んでみましょうか。こちらで英訳も含めてご覧下さい。  タイにお住まいの知り合いが、今とっても大切なお仕事をなさっています。フジファブリックを世界の人に知ってもらうための地道なお仕事です。  彼の音楽や詩には、色濃く昭和の日本の、もっと言うなら、ここ富士吉田の、いやもっと言うならここ下吉田の香りがしますが、一方でグローバルな魅力にも溢れています。真にローカルな「文化」は、真にグローバルな「芸術」になりうるものです。それについては、私も何度か書きましたね。  そういう意味で、私もなんとか海外の人たちにたくさん彼らの音楽を聴いてもらいたいと思っていましたが、なにしろ私にはそういう能力がありません。そんな時に、タイの彼女と不思議なご縁もあって知り合うことができ、私は本当に嬉しく思いました。まさに志村くんが、私たちを家族ぐるみで結びつけてくれたのですから。  たとえば、最近の記事「世界のFujifabric アメリカ編」なんか、私たち日本人にとっても、ものすごくうれしい内容ではないですか。  彼女にはこれからもぜひ頑張ってほしいと思いますし、世界や日本のたくさんの方々にこの素晴らしいサイトを知っていただきたいと思います。  さあ、この名曲の歌詞はいかがでしたか。彼の詩は、多くの日本人の歌人、詩人たちと同様、「不随意」との葛藤をテーマにしています。日本では古来、「不随意」を「もの」と表現していました。そこに嘆息することを「もののあはれ」と言ったのです。そして、その不随意な「もの」の代表とされてきたのが、「時」であり、「我」であったのでした。  志村くんの歌はまさに「もののあはれ」そのもの。音楽も、今の「J」ミュージックのようにカタにはまった薄っぺらで安っぽいものではなく、また、どこか期待を裏切る、「いききらない」流れになっています。  完成や極点や完全な造型や規則性を好む西洋的な感性とは違う、未完なもの、不確かなもの、切ないものに対する愛情という、まことに日本的な「もののあはれ」の魂が、彼の楽曲には深く沈潜、底流しています。  私の教え子のお母さんは、彼の保育所時代の先生でした。その方が「小さい時から詩人みたいだった」とおっしゃっていました。まわりの子どもたちとは明らかに違う感性を持っていたようです。しかし、それはある意味においては、私たち現代の日本人が忘れてしまった大切な感性だったのかもしれませんね。  今日、この金木犀の香りに包まれ、彼の過した家や、そのお隣の保育所を眺めながら、ふとそんなことを思いました。

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コメント

素敵なエピソ-ドありがとうございます。
まさか匂いのする先が志村さんのご実家だったとは。。


自分が住んでいる近辺も1週間前から金木犀の香りがどこからともなく漂ってきて,最近ずっとこの曲が頭の中に居座っています*


また、フジファブリックを好きになったきっかけの曲&志村さんが亡くなってから知ったのですがどうやらPVのロケ地が自分の実家の方なので特別思い入れがあります*

投稿: なじゅ | 2010.10.07 10:07

こんにちは。
金木犀キレイですね。
私が住んでいる地方には金木犀がなく、
同じ日本の秋なのに共有できない寂しさがありました。
(雪が解けたら育てることにチャレンジしようと思います。)

7月は体調が思わしくなく山梨に伺えなかったのですが
いつかゆっくり志村さんの原点を感じてみたいと思う日々です。

投稿: Eco | 2010.10.07 12:27

こんばんは、ご無沙汰しています。
レミオロメンの三重公演の感想を書ききれないまま今日に至っています。
仕事が忙しいです。

今日書かせていただいたのは、私の長女のことなんです。
長女は今年の4月から高校生になりました。
私がレミオロメンを好きになるきっかけを作ってくれたのが長女だったのですが、
その長女が、今ものすごいスピードでフジファブリックにはまっています。
長女が一番最初にフジファブリックを聞いたのは、
藤巻さんのインタビューの件で庵主様にここでご紹介いただいた「タイムマシン」です。
見ていてかわいそうなぐらい好きなんですよ。
今は「バームクーヘン」が好きらしいです。
おかげで私もフジファブリックを聴く機会がすごく増えました。

二人でいつか山梨へ行きたいねと話しております。

投稿: 田中 | 2010.10.08 01:36

今晩は。
いつも楽しく読ませていただいてます。

志村くんの詩の世界は、本当にすばらしいですよね。
実は、私は音楽を聴くとき、そんなに歌詞を重要視してませんでした。
だから、初めて志村くんの詩を読んだとき衝撃をうけました。
今まで自分が忘れていたものがそこにありました。
春夏秋冬、山、月、空、、、。
それまで、毎日空なんか見たことありませんでした。
でも今は毎日変わる空や山の風景、自分の育った町の風景がとても愛おしく感じます。

気づかせてくれた志村くんに、フジファブリックに、すごく感謝しています。

投稿: かえで | 2010.10.08 02:49

金木犀の香りがしてくるような1コマ、ありがとうございま
す。私の住む街でもふっとした瞬間あの香りがして、「赤黄
色の金木犀」を口ずさみたくなります。
志村くんの作品の中で私が最も好きな曲、特に「赤黄色」に
感性が光っていると思っています。紅花は黄赤色とも言いま
すが、金木犀はそういう言い方をした人がいるでしょうか。
志村くんはだいだい色という色彩表現を好むようですので、
だいだい色を赤黄色と言い換えたのでしょうね。
その感覚に非凡な才能を感じます
志村くんの音楽が世界で紹介されるのは嬉しいです。

縦書き、馴染んできましたね、味わいがあります。志村くん
の詞も縦書きに耐え得ると思います。

投稿: kono | 2010.10.08 08:24

皆さん、コメントありがとうございました。
今日は風向きの関係か、あまり香ってきませんでした。
おとといは本当に志村くんに誘われて行ったという感じでしたね。
この金木犀もまさか、こうして世界に発信されるとは思っていなかったでしょう(笑)。
勝手に写真撮ってすみません…と、こんなところで謝ったりして。
四季盤は全て名曲中の名曲ですね。
彼の感性の全てが、もうそこに開花している感じです。
きっと彼はこの自然の営みの中から、たくさんのメッセージを受け取っていたのでしょう。
やはり天才中の天才ですね。
それをこうして一般的、普遍的な「言葉」や「音楽」で表現できたのですから。
皆様も、ぜひ富士吉田の四季を味わいにいらしてください!

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.10.08 16:49

山口先生、こんばんは。
久しぶりにコメントさせて頂きます。
素敵なお話をありがとうございます。

フジQの夜、おそらく志村さんが通園したであろう保育園に行ってみました。
残念ながら金木犀には気付きませんでしたが、あそこに間違いなく志村さんがいたんですね。

私はこのPVの中の校舎の前で歌う志村さんが好きです(ミーハー的発言ですみません)何度繰り返し視聴したことか・・・
このPVの作成はとても大変だったと作成秘話の中で明かされていたのを思い出します。

私が最後に志村さんに会えた新宿厚生年金ライブの日がもうすぐやってきます。
まだまだ悲しみは癒えませんが、志村さんが遺してくれた素晴らしい音楽をこれからも聴き続けます。

*夜の下吉田は車も人も皆無で少し怖かったです。
今度は昼間に訪れてみたいです。

投稿: まこ | 2010.10.08 21:16

山口先生、お久しぶりです。
僕の街も金木犀の香りが街に溢れてますよ。
あの写真の金木犀は志村さんがいつも見ていた金木犀なのですね。今すぐにでも富士吉田に行ってその金木犀を見たいです。しかし今週の土曜日から始まる三連休には、来週テストがあるので、金木犀は見に行けません。
金木犀が来週末までに咲いてるといいんですけどね~
もし咲いてたら、来週末に富士吉田に行きたいです。
今週末の先生の演奏会も行きたかったのに残念です。

投稿: イシハル | 2010.10.08 21:17

まこさん、こんにちは。
私も10月22日が最後でした。
あの日からもうすぐ1年ですか…。
厚生年金会館も閉館となり、
富士吉田の「市民会館」ももうすぐリニューアルです。
なんとなく寂しいですね。

イシハルくん、こんにちは。
まずはテスト頑張って下さいね。
ウチも再来週からテストです。
たぶん来週末までは咲いてると思いますよ。
ぜひおいでください。
私はとりあえず明日の演奏会のために今から練習します。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.10.09 14:07

明日が楽しみな中二病少年です。
先生がフジファの大ファンだと聞いて、僕が最初に聴いたフジファの曲の1つがこの赤黄色の金木犀でした。
演奏、歌、そして何より詞の深さに思わず聞き入ってしまいました。こんな人が、地元のすぐ近くに住んでいたのかとビックリしたのを覚えています。
ぼくはあくまでRAD一筋ですが、時々は一味違う音楽に触れる事もいいなと思いました(フジファのファンは、起こるだろうな(A;´・ω・)アセアセ)

投稿: 中二病の昌平 | 2010.10.09 14:30

昌平くんよ、それでいいと思うよ。
まずは自分のこだわりバンドが一つあるといい。
そして、たまには別のバンドも。
そう言えば、この前一緒に呑んだ河口修二さん、レミオロメンのほかにもRADのサポートもしてるって言ってたな。
RADのギターも結構難しそうだね。
得意のチェロでやってみたら?ww

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.10.09 17:10

実家から少しわけてもらった金木犀が部屋中に香っています。
日本中の金木犀の香りが,志村くんに届きますように・・・。

突然このようなお便りを差し上げる無礼をお赦し下さい。
私は遠く四国に住む40代の主婦です。
つい数ヶ月前にYou Tubeで,奥田民生さんと寺岡呼人さんと『ぺけぺけ』を歌う志村くんを見かけて以来,彼の佇まいの美しさと,そのずば抜けた音楽センスに圧倒され続けています。

そして,お恥ずかしい事に,毎日彼の歌を聴いては,年甲斐もなく(年のせいかもしれませんが・・)涙を流してしまうのです。特に,アルバム『CHRONICLE』は,昔の自分と,彼の不安や孤独とが重なってしまい,涙なくしては聴くことができないのです。
それにしても,なぜ,今,私は彼の音楽と出会い,なぜ,こんなにも涙してしまうのか・・・。そのことをずっと考えていました。そして,最近,ようやくその答えに気づいたのです。

6年程前,私は自分の弱い心を強くしたい,少しでも美しく生きたいと切に願い,ある武道を習い始めました。けれども,実際に足を踏み入れてみると,そこはそれほど美しい世界ではありませんでした。それでも,もう少し続けていれば,求めているものに出会えるかもしれないと,多少のことには目をつぶり,耳をふさいでいる内に,私の心は以前にも増して汚れてしまっていたのです。 

そんな私に彼は,
 『何か捨てちゃいけないものを捨ててはいませんか?
  何か大切なものを手放してはいませんか?』
と,問いかけてくれ,あふれる涙で心を浄化してくれていたのかもしれないと・・・。

自分勝手な都合のいい解釈ではありますが,志村くんの音楽には,人の心を美しくする力があると信じています。きっと,彼自身が美しい魂をもった人だったのでしょう。

こんな自意識過剰な,自己満足の塊のようなお便りを出す事には相当の迷いがありました。でも,どうしても,志村くんに『ありがとう。』を言いたくて,志村くんに理解の深い山口先生にならば伝えていただけるかと,勇気をふりしぼりました。長々と申し訳ありませんでした。

いつか富士吉田に伺い,『いつもの丘』に登り,志村くんにお礼を言わせてもらおうと思っています。

余談ですが,私の次女の名前は『茜』といいます。
彼女が生まれる前日に,とても美しい茜色の夕日を見たので,そう名付けました。娘たちもいつかフジファブリックのファンになってくれると思っています。

これからも先生のブログ,楽しみに拝見させていただきます。
ありがとうございました。

投稿: 松原 恵子 | 2010.10.11 07:13

松原さん、コメントありがとうございます。
きっとお気持ちは志村くんにも伝わると思います。
私もある意味年甲斐もなく、彼の言葉と音楽にすっかりやられてしまいました。
世代を超えて愛される不思議な魅力がありますね。
たしかに彼の魂はとっても純粋で美しかったと思います。
だからこそ辛いこともあったのでしょうね。
私たち大人が、無意識に目をつぶってしまっていた「大切なもの」を思い出させてくれる曲ばかりです。
彼はとんでもなく強かったのかもしれませんね。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.10.11 21:19

私の住む街でも金木犀が咲き始めたようです
街中が金木犀の香りで包まれていて逃げ場がない感じです
もう少しすれば冬のコートを出さなければなりません
そうしたら去年のあの衝撃を思い出すのでしょう
雪が降ればストックホルムでの志村くんを思い出し、桜が咲けば『桜の季節』を歌う志村くんの姿が浮かんでしまうのでしょう
そうやってまた一年が過ぎてしまうんでしょうか
一周忌を目前に心が押し潰されてしまいそうです

志村くんのご家族にお伝え頂けたらと思います
これから何年経ったとしても彼を忘れることは出来ないです
こうして金木犀の香りがすれば何人もの人が彼の名前を呟いているし、クリスマスイブには悲しみに暮れる人がたくさんいるんです
一年が過ぎようとしても悲しみは少しも癒されたりしていません
一生この気持ちは消えないと思います
いつでも志村正彦を想っています
忘れることはないです
彼の曲と共に生きていきます

忘れられることが怖い。と言っていたお母様に…

投稿: なべとも | 2010.10.11 21:52

なべともさん、コメントありがとうございます。
たしかに忘れられませんね。
それだけすごい人間だったということです。
もうそういう人と出会えたことに感謝するしかありません。
きっと彼のご家族も皆さんのコメントを読んでくださっていると思います。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.10.12 18:09

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