『街場のメディア論』 内田樹 (光文社新書)
内田樹というメディアは、いつもながら面白い。彼の言説は常に発見のあるエンターテインメントとなっています。
つまり、なんだかとっても正しいような気がするのですが、だからと言ってそれらがちっとも現実化しないという、いわば夢のような感じがするんですよね。
彼一流の視点と理論と言い回しのおかげで、それこそ我々の知性が劣化するんじゃないでしょうかね。でも、それが気持ちいいので、一種麻薬のような魅力があると。
読後すぐには、まさに目からウロコ、膝を打って興奮していた私も、こうして少し経ってから記事を書こうとすると、なんかちょっと意地悪な気持ちになるんですよね。遊園地で遊んだあとの空しさというか。
ここに書かれているキャリア論、教育論、マスコミ論、テレビ論、新聞論、読書論その他も、実に見事な「楽しさ」を演出してくれています。現実や常識がひっくり返る快感を与えてくれます。
しかし、そうした快感の集合体をもって、はたして本当に世の中がひっくり返るかというと、やはりひっくり返らない。
ヤクザ映画を観たあとしばらく、自分がその道の人になったかのように錯覚して街を闊歩するのと同じような感じでしょうか。だからエンターテインメントだと言うのです。実際売れていますし。
そんな我々は、エセヤクザ、いやいやエセインテリ、エセ知性派、エセ憂国の士なのかもしれませんよ。とっても意地悪な言い方をするとそういうことです。
しかし、そんな内田さんの言葉によるエンターテインメントを私も、彼のブログではもちろん、けっこう書籍も買わせていただいて楽しんでいます。プロレスを観て、現実逃避するのと同じなのかもしれませんね。どこか「これは現実化しない」「フィクションである」という意識があるのも事実です。
センセイという職業上も、彼の言説はコンビニエントなんですよね。ちょっとそれらしいことを生徒に語るには、すなわち教室を遊園地化するには、彼からの受け売りは非常に便利です。この前も私、説明会でしっかり受け売りさせてもらいました。読後すぐだったので(苦笑)。
もちろん、彼の博覧強記と柔軟性と謙虚さは私の憧れでもあります。レベルは違えど私も自分のブログで人と違うこと(現実的でないこと)を書いて悦に入っているとも言えます。今、こうして人と違う「内田樹論」をやらかしているのも、その一つの例かもしれませんね。
そして、彼が著作権というものを放棄しているように、私も権利とともに責任をも放棄して好き勝手をやっています。いや、「私も」なんて書いたら失礼か。彼は権利は捨てても責任は持てと主張しているわけですから。
いずれにせよ、彼の言説にいちいち納得する私たちがいくら増えても、なぜか世の中は大きく変化しないんですよね。ある意味不思議です。いや、ある意味、そのように現実に対して現実的な影響力がないからこそ、彼も私もこうして発言し続けることができるのかもしれませんね。
ちなみに私には私のメディア論があります。ここのところ、某巨大広告代理店の方や、地方の広告会社の方とお話をする機会が多くあります。そこで、現実を動かすべく(動かないでしょうけれど)いくつかのアイデアを提示させていただいています。私は、たとえばこういうブログのような、不特定多数を対象にした媒体ではエンターテインメントに徹していますが、個別の専門家に対しては、案外現実的な提案を(ずうずうしく)するんですよ。
まあ、きっと内田さんもそうなんでしょうね。マスに対しては遊園地であり、麻薬に徹する。つまり、言説は嗜好品なのかもしれませんね。言葉や思想というのは、もともとそういう種類のものなのかもしれません。
人には「知的遊戯」というのも必要です。「知的遊戯」が真の知性の動力になることもあるからです。それが現実離れしているのは、その人間の知性こそが現実世界ではあまり重要視されていないという事実の裏返しなのです。
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